それは私がちょうど小学三年生の頃。
よく覚えてはいないが、帰宅すると家には誰もいなかった。
静寂に包まれた家の中。
廊下からふと茶の間を覗くと、テレビがついていた。
画面には黒いバックに女性がアップで正面を向いている。
音はしない。
白黒の映像かと思ったが、唇の赤いのが印象にある。
ハレーションを起こして妙に白く映った感じ。
その女性は目のパッチリとした、少しウェーブのかかったセミロング。
その映った女性の視点は正面を凝視している。
廊下からテレビを見た私の位置はテレビの正面ではないため、当然女性とは視線は合わない。
最初は誰かテレビをつけっぱなしにして出かけたとしか思っていなくて、ボーっとテレビを見つめていた。
そのとき、女性の視線がこちらに向き、ビックリした顔になった。
私に見つかったような慌てた表情だった。
その瞬間、女性は画面の下方にしゃがむように消えた。
よくその状況が理解できていなかった私は、テレビに近寄った。
テレビは消えていた・・・。
リモコンのない時代、電源スイッチのON/OFFはボタンで行っていた。
ボタンはOFFの位置だったのだ。
テレビをつけると、3時のあなた(だったような)が映し出された。
怖くなって、テレビをつけっぱなしにして私は外に出た。
私は、今でも消えたテレビが少し怖い。
ブラウン管が怖いのだ。