花見の席で上司のAさんに聞いた話。
学生の頃、Aさんは吹奏楽部に所属していた。
山あいの小さな村にある学校だった為、敷地は狭く、部員は、裏山の山頂の休憩所のような所で練習をしていたそうだ。
そこは桜の名所で3月の終わりともなれば提灯が飾られ、花見客でそれなりに賑わう。
Aさんは一番の親友で、部活仲間のBと咲き始めた桜を見ながら、また数日間は練習が難しくなると話していた。
するとBは学校が始まる前に練習することを持ちかけてきた。
朝が弱いAさんは気乗りしなかったがBのやる気に押され、次の日Bと朝練をする約束をした。
次の日、案の定遅刻してしまったAさんが「すまーん」と叫びながら山頂に来ると、Bが、ボーっとトランペットを抱えたまま座っているのが見えた。
A:「何してるんだ?」
B:「すごい美人を見た。」
Bは半ば上の空で話した。
Bが1人で練習をしていると、艶やかな着物を着た透き通るような白い肌の美人が、桜の木々の間からこちらを見ているのに気づいたという。
女性がにっこりと微笑みかけ、誘うように手をのべる。
Bが話し掛けようとした時に、Aさんが来たらしい。
はっきりと見えた筈のその姿は急に見えなくなったという。
それからAさんはBと学校に向かったが、しばらくしてBが高熱で病院に運ばれたという知らせを聞かされた。
Bはその日のうちに病院を抜け出し、行方不明になってしまった。
青年団が付近を捜索すると、裏山で桜の花びらに埋もれるようにして、Bのトランペットのケースだけが見つかったという。
それ以来、Bの消息は不明なままらしい。