保健室のベッドで寝るのは初めてだった。
こんなに熱が出たのも初めてだ。
風邪を引いてるからだけじゃない。
隣には◯木さんがいた。
病弱なのは聞いてたけど、こんなところで会うなんて夢にも思わなかった。
二人とも熱でだるかったけど、ただ横になってるなんてつまらなかったから、色んな話をした。
こんな隣同士のベッドで寝てるなんて、結婚したみたいだ。
なんて考えて、ボクはどきどきしていた。
◯木さんは寝ちゃったけど、ボクはとても眠れやしなかった。
「先生ね、ちょっと、行かなくちゃいけないんだけど、楽にしててね」
誰かが呼びにきて、先生はどこかへ行った。
突然二人きりにされて、ボクはますます眠れなくなってきた。
ちらちらと、◯木さんを盗み見ていると、カーテンの向こうで声がした。
「・・・に・・・い・・・だろ」よく聞こえないけど、知ってる声みたいだ。
ボクは△ちゃんだったらまずいと思って、薄目を開けて、寝たふりをした。
△ちゃんが◯木さんを好きなのはみんな知ってる。
こんなところを見られたら、後でなんて言われるか判らない。
「・・こ・・・る・・」なにかつぶやきながら、声が近づいてくる。
「だ・・か・・こに・・るだろ」カーテンは開いた音はしないのに、いつの間にか声はすぐそばにまで来てる。
薄目を開けてるのに、誰も見えない。
「・・こ・・・よ」嘘寝がばれるから、絶対に動いちゃいけないと思って、ボクは目を閉じた。
今は、もう、すぐそばで声がしていた。
「だれかそこにいるだろ」絶対におかしかった。
絶対。
足音もしないし、誰も見えないのに。
「だれかそこにいるだろ」
「・・こ・・・るよ」声はボクの周りをうろうろしていた。
頑張って薄目で見てみたら、カーテンは人影で囲まれている。
「だれかそこにいるだろ」見つかっちゃだめだ!!
そう思ったけど、突然◯木さんのことが頭に浮かんできた。
そうだ、◯木さん!
◯木さんは大丈夫!?
ボクは寝返りのふりで、◯木さんの方を薄目で見た。
◯木さんは飛び上がって、ギィッ、と、目を見開き、ボクを指差して、信じられないような低い声で言った。