山梨の奥の方にある秘湯だって言う評判の宿に行ったんだ。
戦国時代からあるらしくて、何度か戦場になったこともあるらしい場所。
なんでも、風呂場には怨念が残っているなんて噂もあるらしい。
そういうの大好きな僕らは、ちょっとワクワクしながら行ったんだよね。
いざ着いてみると、秘湯と言うわりには創りが新しく、思いの外綺麗な宿。
「秘湯もリフォームするんだなぁ」とか思いながらすぐに大浴場に向かった。
ここも綺麗な作りで、改装したばかりなのかな?綺麗な御影石で作られたお風呂だった。
お湯は透明、でも少しぬるっとする感触。
寒い時期だったこともあって、ゆっくり温まったんだ。
風呂の中で、来るときに聞いた怨霊の話を思い出していた。
なんでも、命からがら逃げ延びた武士や村の者がこの風呂で温まっている時に、追手の敵兵に見つかって殺されたらしい。
その状況は凄惨で、武士だけでなく、女子供や老人たちですら斬り捨てられたと言う話。
なんだか怖くなってお湯の中でなんの気なしに足元を見ていると、石の模様がなんとなく顔に見えてくる。
「ああ、そんな話を聞いたからかな」と思っていたのだけれど、石に浮かぶ顔は次々と表情や人相を変え、もの凄い数が見えてくる。
そのうち、なんとなく顔に見えると言う状況ではなく、完全に人の顔にしか見えなくなってきた。
こりゃ、尋常じゃないぞ。
裸で伸ばした両足の間に、無数の顔。
そのすべてが、福本伸行先生が描いた顔をしているんだ。
※【福本伸行:カイジなどの原作者】
右脚の先に、カイジ。
左足の膝あたりに、涯。
右脚の膝には、石井さん。
その横に、銀さんと天。
そして股間に浮かび上がる、鷲巣さま。
僕はもう、恐ろしくて恐ろしくて、腹筋が裂けるかと思った。