俺が写真学校の学生のころ。
JR八高線に「毛呂(もろ)」という駅がある。
その西口から適当に歩いて、駅近くの丘のような低い山に登った。
一面にススキが生えて木や藪はなく、まわりがよく見渡せる。
初秋のころで、よく晴れたいい日だった。
上り口に石段があったから、木に隠れた頂上付近に社でもあるのだろう。
ところが中腹まで行ったころ、怖くて怖くてたまらなくなった。
何が怖いのかわからない。
相変わらず周りのススキはのどかだし、後ろを振り向けばちょっと遠くに八高線がゴトゴト走ってる。
日の光や風だってさわやかだ。
それなのに汗が出て体が震えるほどひたすら怖い。
とうとう、山道の向こうに一本松が見えるところまで来て、一歩も進めなくなった。
俺はカメラを取り出し、一枚だけ撮った。
そのあいだも怖くて体がビクビクするし、くるりと背を向けて道を下るのも怖い怖い。
俺は知人の霊感のある人にその写真を見てもらった。
秋田の人で当時、50くらいのおばさんだった。
その人は言った。
「ああ、いやな写真だね。この先の土の盛り上がったところ。ここがよくない。超えて行かなくてよかったね」
たしかに一本松の手前の山道に、あたかも何かが出ようとしているかのように一箇所、はっきりと土が盛り上がっていた。