コーチングをしている知り合い(K)の話。
※コーチング・・・コーチ(聞き手)との問答による精神治療、セラピーみたいなもの。
知り合いの顧客の中に、ベンチャー企業の社長をしている方(Aさん)がいた。
結婚していて、息子一人、娘一人の二人の子がいて、とても幸せそうな家族だったのだが、不況の煽りで自分の会社を倒産しなければならなくなった。
倒産手続きは一年弱と長期に渡り、肉体的にも精神的にもクタクタになりながらも、ようやく完了した。
子供たちの学費や家のローン等、職を失った今、これからの不安が尽きることは無かったが、倒産手続きを終えた時思ったことは、「とにかくゆっくりしたい・・・」で、何を甘えてるんだと思いながらも、それが正直な気持ちだった。
思い切って奥さんにその旨を伝えると、「・・・わかった。少し休んだら、これからの事考えようね」と、夫のことをいたわってか、快く了承してくれたらしい。
その翌日、AさんはKのところでコーチングをして帰ろうとした時、携帯にメールが入った。
差出人は奥さんだった。
何だろう、と立ち止まってメールを読んでみる。
『今日、求人雑誌を買ってきました。あなたが職を失った今、パートでもしなきゃと思ったからです。これからは食事とか生活面を見直さなければいけませんね。今までみたいに贅沢はしてられません。せめて子供たちが今通ってる学校の学費は払えるようにしたいね。あの子達とても不安がってるから。』
『昨日あなたはゆっくりしたいと言っていましたね。これから家がどうなるのかわからないのに。貯金も切り崩していかなきゃいけないし自分たちがこれから生きていけるのかわからないのに。こういう状況の中であなたはゆっくりしたいと言った。』
『私あなたを殺してやりたいって思う』
Aさんは軽いパニック状態を起こしながら、Kのところへ戻ってきたそうだ。
事情を聞き、断りを入れてメールを読んだKは、私との話で「背筋が凍るとはまさにあのことだった」という。
ここで再度Kはコーチングを始め、Aさんは徐々に落ち着きを取り戻した。
KはAさんにこんな質問を投げかけた。
K:「奥さんは・・・何で殺してやりたいって言ったと思います?」
Aさん:「・・・たぶん・・・・・・不安なんだと思います」
Kも同意見だった。
突然の環境の変化、将来の不安に押しつぶされまいと平静を装ってきた奥さんもついに我慢できなくなり、つい直接的な言葉を使ってしまった。
その後は奥さんもコーチングに同行してもらい、夫婦でいっしょに心の不安を取り除いていったそうだ。
Kはこの出来事を教訓にしている。
言葉は感情の裏返し。
この事に気づかず、もしAさんが奥さんの言葉をそのまま受け取っていたら最悪、事件に発展したかもしれない。
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