上京してきた友人に聞いた話です。
友人は山奥の集落みたいな村に住んでたそうです。
その村では、いわゆる大地主一家が権力者で、一部の人は『様』付けで呼ぶほどの、崇拝染みた扱いを受けてました。
当時友人は、その一家を異常だと思っていたそうです。
その理由は、あまりにも完璧だったから。
少し興味があったので、「何故?」と私が聞くと、友人は自分が体験し、聞いた事を話してくれました。
友人は集落の中の上ぐらいの立場だった。
村の年寄りは皆、地主の事を崇めるらしい。
当時は、「気に食わない。でもあいつ等は、皆かなりの実力を持っている。テストは大体満点、成績もトップ。運動神経も良くて、マラソン大会では常にも一位だった。でも異常なんだ。少なくても30年以上、完璧な奴しかいないんだ。地主一家は多産で兄弟が多い。その中には一人くらい駄目な奴がいてもいいじゃないか」と思ってたと言う。
私は「実は、いろんなとこから連れて来てるとか。優秀そうな子を」と言った。
友人は、「いや、地主の所に子供が生まれると、必ず小さな祭りが行われる。確かに二十歳ぐらいで都会に行く人もいるが、彼らも年末年始に帰ってきて、皆の前に現れるんだ。むしろ、家に留まってる奴らの方が怪しかった。殆ど顔出さないんだ。年末年始にも、ちょっと襖の隙間から顔見せるくらいで・・・家の中で、村をまとめる重要な仕事してるらしいんだけど、どうも怪しかったし、出てった人より能無しっぽいんだ。まあ・・・と言うか、見ちまったんだけどな・・・」
ここで友人は、顔を暗くしてため息を漏らした。
あれは、思い出したくない物を思い出した時の顔だった。
友人はゆっくり語り始めた。
友人:「地主一家の一人が亡くなり、葬式をした日の事なんだけど・・・、俺はまだ未成年だったけど目を付けられて、日本酒を飲まされたんだ。当然酔い潰れた。そして地主の家に一晩泊まる事になって、夜中に目が覚め、起きてトイレに向かったんだ・・・」
地主家は広く薄暗い。
友人は慣れて無かったので(若干酔ってたせいもあると思うが)、案の定迷ったらしい。
トイレの場所が分からなくなり、とり合えず元来た道を引き返そうとしたら、後ろの方から、「ペたっ・・・ペたっ・・・ペたっ・・・」と足音?が聞こえた。
いや、足音でも歩いてる音とは少し違った。
どちらかと言うと、弾んでるような音・・・それが近づいてくる。
「ぺたっ・・・シュリ・・・ぺたっ・・・シュリ・・・ぺたん・・・」
近づくにつれ、何かを擦るような音も聞こえ始めた。
怖くなって、近くの物入れの中に隠れて様子を見た。
・・・物音の正体は人だった。
安心してトイレの場所を聞こうと思ったが、飛び込んできた恐怖で体が止まった。
その人は黒装束を着ていて、顔には能面みたいな物を付けており、足が片方付いて無い。
しかし、手には足が一本握られていた。
余りのショックで息もできなかった。
それが幸いしたのか、黒装束に見つかる事も無く、そいつは片足で・・・「ペタンッ・・・ペタンッ・・・」とケンケンしながら奥に消えていった。
その夜は一睡も出来ず布団の中で震えた・・・。
早朝、昨晩の出来事は、地主一家に話すか話さないか迷ったが、好奇心に負け、地主一家で一番信頼できる人に話した。
その人は「本当か!?ちょっと待っててくれ」と言って奥の方に走って行き、5分くらいで戻ってきた。
「すまなかった。見てしまったんだな・・・出来れば忘れて欲しいが、直にアレを見てしまったのでは無理だろう。今日はもう帰りなさい。後で話すが、トラウマは少ないほうがいいから」と言って帰された。
2日後、その人と話したが、信じ難い内容だった。
あの黒装束は、代々地主一家に取り憑く幽霊の類だそうだ。
そいつが単体で何かをするわけでは無いが、ある条件の人に取り憑き、ある条件の人にある事をするらしい。
その条件は聞けなかったが、想像に難くなった。
幽霊は『脱落者』に取り憑くのだ。
そして『脱落者』の候補に、『脱落者の烙印』を押すのだと・・・。
脱落の条件は、成績等が芳しくない一族の者だろう。
烙印は、黒装束が持っていた物だろう。
これで地主一家の優秀さが分かった。
彼らは必死になって努力したのだろう。
報われた者は秀才として家を出て行き、報われない者は家に留まる。
言い換えれば、家から逃げ出せた者と、烙印を押されたが為に逃げ出せない者。
脱落者は家の中に隠される。
他人と話すことが無いから、周りの人は優秀な人しかいないと感じる。
友人は「村の年寄りは全部知ってるらしい」と付け加える。
私は「その事、他人に話しても大丈夫なの?」と聞いた。
友人は、「話しても、アレを見て無い人は信じないだろ?それに、地主一家はいろんなとこにパイプを持ってる。選挙なんて、地主が入れた人が確実に当選するらしいしな。」
友人:「ちなみに、俺が見た時『脱落』した奴が、この前死んだよ。若かったし、多分発狂したんじゃないかな。話してくれた人も顔が傷だらけだったし。俺でも、エリートから脱落して引きこもりを強いられたら狂っちまうよ。それに、あの家の東側は、誰も行けないようになってるんだが、たまに小さな悲鳴が聞こえるからな。」
友人:「あれの存在で全てが繋がったよ。俺のクラスに3男がいたんだが、マラソン大会でゴールした後ぶっ倒れて、救急車に運ばれてったんだよ。俺はそこまで必死になるのが理解出来なかったんだけど、今なら分かる」
・・・友人はその後も、その一族の武勇伝のようなものを次々と語りました。
本人は気に食わないと言ってましたが、その口調は一族を称えてるようにしか聞こえません。
知らず知らずの内に崇拝されるようなカリスマが、その一族にはあるのか、または、霊的なもので洗脳されるのか・・・私は後者に感じました。
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