鳥居に釘で打ち付けられている

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

俺だけが怖かっただけだし、ちょっと長いので、暇潰し程度に読んで貰えれば幸いです

俺の家は稲荷神社を管理してる。
神主ではなくて、神社の本殿の鍵を遠方にいる神主の方から預かっていて、定期的に掃除したりするような感じだ。

高校2年の頃。
当時俺は、嫌いな授業があるってだけで昼から登校してみたり、仮病使って午前中に早退したり、あんまり学校に長居しない不真面目なやつだった。

6月か7月の晴れた日。
その日も俺は仮病を使って午前11時くらいに早退したんだ。
バスに乗って家に帰ったんだけど、親は仕事で当然いなくて、いつもは家にいるばあちゃんもいなかった。

家にいても暇だったし、いずれ帰ってくるばあちゃんに、早退したことをとやかく言われるのがいやだったから、制服から私服に着替えて、スクールバッグに暇潰しアイテムを詰め込んで、ばあちゃんの部屋にある神社の鍵を拝借して家を出た。

多分、昼の12時くらいだと思う。
早退したことがバレないように、俺は神社の本殿に夕方まで籠城するつもりだったんだ。

神社は家の玄関からも見える小高い山の頂上、ちょっとした森の中にある。
昼間でも人はまったくと言っていいくらい来ないし、木々に遮られて日があまり当たらないからすごく涼しかった。

やたら長い石の階段を上って、赤い鳥居をくぐってちょっと歩くと本殿だ。
扉の鍵を開けると靴を脱ぐ場所があって、一段高くなったところにさらに扉がある。

その先が30人くらいは入れるようなわりと広い、畳敷きの部屋になっていて、左右には窓、中央に蝋燭立てや線香を立てる金の器を置いた机、その奥に賽銭箱がある。
さらに奥には、金の刺繍に原色のド派手な布が垂れさがってる棚があって、御神体が置いてあった。

蝉の鳴き声と、風で木々が揺れるザワザワした音しか聞こえない薄暗くて広い部屋だった。
想像すると不気味かもしれないけど、俺はばあちゃんにくっついて小さい頃から出入りしてたから、「静かで落ち着くなー」くらいの感情しかなかった。

1時間か2時間は経ったと思う。
昼飯の弁当を食べて、小説を読み終わって、携帯の充電も半分に減ってきた辺りで、暇になった。
お菓子の袋をあけて、御神体の前にティッシュを敷いて、ちょっとだけわけてあげたり、線香立てて拝んだりしてから、寝転がって食べはじめたとき「コツン」って音がした、ような気がした。

ポテチとかハッピーターンみたいなお菓子を食べてるときの音って、意外と耳に響いて、小さな音があんまり聞こえなくないか?

そんな感じで、バリバリ食べてる合間に音が聞こえたような気がした。
俺はお菓子を食べるのをやめて、耳を澄ませてみた。

「コツン、コツン」

今度はちゃんと聞こえた。

キツツキが木をつついてるのをゆっくりにしたような響く音だった。
風が強くて、ザワザワ木々が揺れる音の中にあって、自然に鳴る音には思えなかった。
キツツキもいないしね。

本殿の扉は上半分がガラスになってて外が見える。
俺は寝転がったまま扉に近付いて、そーっとガラスの部分から外を見た。
女が鳥居のとこに、背中を向けて立っていた。

長い黒髪が、風で猛烈に揺れてる意外に身体はほとんど動いてなかったと思う。
というか、髪がバサバサ揺れてるから、腰の辺りから上がほとんど見えない。

鳥居に向かって何かしてるんだろうけど、俺は視力が悪かったから、それが何かはわからなかった。
いつ振り向くかわからないのも怖かったが、目を離したら本殿に来るんじゃないかって気もして怖い。
とにかく女に気付かれたらやばいそれだけを考えて心臓がバクバクした。

どれくらいそうしてたかは分からないけど、女は振り返らなかったし、本殿にも来なくて、相変わらず髪をバサバサ揺らして、階段を下りていった。

すぐに出るのは当然怖いから、荷物をまとめて、しばらくしてから外に出て鍵をかけた。
女が下りていった階段とは別に、民家の裏手に出る階段があるんで、そこを下りてマッハで家に帰った。
俺が体験したのはこれだけで、追いかけまわされたりもしてない。

何日かして、神社の草刈りに来た近所のおじさんが、ヒトガタに切った白い紙に赤い字で名前が書いてあるのが、鳥居に釘で打ち付けられているのを見つけたって言って、実物を持ってきた。
紙に書いてあったのは知らない女の人の名前だった。

まあ、そんな体験があってからは1人で本殿に行くこともなくなった。
で、最近、夜の散歩を趣味にしてるんだ。

日付が明ける前、昨日の夜11時頃に玄関から出てすぐ見える神社、がある小高い山のとこに懐中電灯らしい明かりが見えた。

「かおり~かおりちゃ~ん」って女の声がした。

近所のおばちゃんが猫でも探してるのかと思ったんだけど、フラッシュバックしたみたいに神社での体験を思い出した。

散歩はやめて、音を立てないように扉を静かに閉めて家に入った。
近所のおじさんが持ってきたヒトガタの紙、書いてあった名前がかおりだったんだ。

偶然だと思いたいけど、あの体験と一緒に紙の名前を思い出した瞬間に「かおりちゃーん」ってまた聞こえたときに立った鳥肌は人生でも最強レベルだった。

おしまい。

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