薬と酒とロープと片道切符

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

僕は自殺しに樹海に入る前に不思議なことが起こり、樹海に入ることなく自宅に帰った。

鬱が酷く、薬と酒とロープと片道切符、少しの金(5kくらい)、普段着で家を出た。
電車に揺られ、『景色が綺麗だ、樹海はどうだろう』とか思いながら。

有名な入り口のあるバス停に行く前に、なんとなく『ばれねーか?』と思ってしまいウロチョロ。
したら、地元民が「あんた、ユースケ君じゃないか?」と聞いてきた。
「違いますよ、観光客です」と言った。

したら、「ああ、ごめんなさいね、泊まるトコあるの」と。
なんなんだろうこのおばさん・・・と思った。

僕:「ハイ、ホテル取りますし」

なんか久々に人と(母親クラスのオバサン)と話して楽になった僕は、ついオバサンの誘惑に負けた。

おばさん:「泊まっていきなさい、今夜は鍋だよ」

・・・鍋なんて何年も食ってなかった。

結構古い佇まいの家に通され、ご家族が居た。
羨ましかったが、『ヤベー僕は此処には要らない人間なのに』と思った。
したら、オジサン(オバサンの旦那)が「良くきたね」と肩に手を置いた。

世間話しながらつい「鬱病で働けない」とか口を滑らせる僕・・・。

オジサ:「○○君、失礼だけど荷物見せてくれないかな」

僕:「!!!!いや、下着だけですよ」

そう言って僕は焦った。
したら、お婆さんが写真を持ってきた。

リュックにロープ、本、薬とお菓子が入った写真。
ユースケ君とは其処の息子だった。
まさかこんな近場で死ぬとは思わなかったと言う。

鍋は、ご家族と僕とユースケ君の写真とで、泣きながら食った。
あんな美味い食い物と優しい人が居ることに、自殺願望は遠のいた。

風呂は薪で焚くタイプのやつ、1番に行かせてくれた。
オジサンが一緒の部屋で寝てた。(実際は一睡もしていなかったらしい)

翌日、「御世話になりました」とその家を出ようとしたら、なんと自宅まで送るという。
「じゃあ警察に行きますから」と言うが、「させてちょうだい」と。

僕は四国に住んでいたから信じられなかったが、本当に送って下さった。
ちょっとした家族旅行みたいで楽しかった。

其処のご家族は、ユースケ君の病状について親に説明してくれた。
僕の親は理解が無かったから。
遠いところから送ってきて下さり、借りていた旅費を親が返そうとしたら、「ユースケに怒られるからいいんですよ」と受け取らない。
しかも、僕の親もユースケ君のご両親も号泣だ。(僕も)

その後入院し、多少楽になった。
ユースケ君のご両親とは未だに家族絡みのお付き合いだよ。

みんな、シヌナ。

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