山の上にはテレビ局やら公共機関やら通信事業者やらの、無線中継所という施設があります。
それぞれの機関が使用する電波を、文字通り中継する設備です。
私はその中継所が故障した時に、昼夜を問わずに赴き、修理する仕事をしてます。
ある夜、中継所を束ねる中央監視室で待機していたら、警報を出す中継所があったので、先輩と急行しました。
中継所につくと、中継装置は妨害電波を検出したと告げていました。
妨害電波自体はそれほど珍しいことではなく、大気の影響で起こり得るのですが、その発生間隔が実に奇妙でした。
規則正しく0.5秒間隔で妨害電波発生。
停波を繰り返したかと思えば、数秒ほど完全に沈黙。
かと思えば、また0.5秒間隔で発生と停波―をループしてました。
すぐに妨害電波の強さを測定した結果、電界強度は限りなくゼロでした。
これは、妨害電波など存在しないか、仮に妨害があったとしても、もはや装置には電波と認識できないレベルである事を示唆します。
私はすぐに中継装置の妨害検出基盤の故障と判断し、持参した予備装置に交換しました。
ところが、交換した装置を再起動すると、また同じ警報を出力します。
私は困りはて、思い付く限りの基盤を、片っ端から予備に交換していきました。
しかし、ぜんぜん効果はなく、もう心の中では、この妨害がおさまったら修理できた事にして帰ろう、と諦めました。
とは言え、何もしない訳にはいかず、無駄と知りながら、あちこち調整したり交換したりを続けました。
小一時間、そんな不毛なあがきをしていたら、突然パッタリと妨害電波の検出がおさまりました。
しばらく様子を見て、何事もなかったかのように正常稼働する装置を見て、私たちは帰路に着いたのですが、この数年、帰り道に先輩が言った言葉を良く思い出します。
先輩:「あの妨害の出方、モールスみたいやったな」
オカ板で某県で拉致られそうになったとか、北朝鮮の話を聞くと、まさかね、とは思いつつ、あの日を思い出します。
日本海を眼下に見る中継所ではありましたが・・・。
モールスったって、「トンツー」のうち、「トン」の短点しか当てはまらないですし。
でも、モールスを知らない人が何か伝えたい時に、どうするか考えたら・・・まさかね。