サバイバルゲームをしていたある日の事

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

昔の話。

地主の許可を得ている山でサバイバルゲームをしていたある日の事、地主から最近不法投棄で困っているという話を聞き、力を貸す事になった。
力を貸すといっても実力行使をする訳では無く、月に何回かやっている夜戦の時に、不法投棄されている場所を監視し、もし犯人と遭遇するような事があれば、車のナンバーや証拠になる映像を撮って欲しいとの事。

流石にゲームが行われる週末のみの監視では、犯人と遭遇する可能性は低かったが、そういうシチュエーションが大好きなメンバー達はノリノリで準備する事に。

現場はゲームをしているフィールドへと向かう私道の入口から、県道を300m程進んだ道沿いの斜面下にあったので、県道と現場を見下ろせる山の斜面上に、巧妙にカモフラージュした監視小屋を建て、監視作業が始まった。

それから約二ヶ月、毎週のように夜戦と監視は行われたが、特に事件らしい事件も起こらず、そろそろ監視を終了しようかと考えていたある週末、予想外の事件が起こる。

その日のゲームが開始されてから1時間が経過、監視を交代したAとBが休憩場所であるセーフティゾーンに戻って来た時、先程監視を交代したばかりのCから連絡が入った。

C:『あ・・・ありのまま今起こっている事を話すぜ!俺とDが現場を監視していたら、ワンピース姿の女が一人で山道を歩いていた・・・な・・・何を言ってるのか解らねーと思うが、俺達も何を見たのか解らなかった・・・』

普段物静かで真面目なCがポルナレフ状態で連絡してきた事態に、Aは緊急事態と判断して即ゲームを中断させ、セーフティへ戻ってきたメンバー達にCからの報告を伝えると、Bと共に監視小屋へ向かった。

ライトで足元を照らしながら県道へと繋がる私道を進み、途中にある監視小屋への近道へと入ろうとしたその時、先頭を進むAが無言のままハンドサインで止まれという合図を出し、ライトを消すと同時にその場に伏せる。
Bもそれに習いライトを消灯後、停止したAのすぐ後ろに付き小声で何事かと聞く。

A:「1時(時計板を基準にした方向指示で正面やや右方向)、100m先、女がいる」

B:「うわ...マジだ」

私道と県道の合流点にある街灯の下、暗闇の中ライトアップされた場所にワンピース姿の女性が座り込んでいた。
初見ならCのようにパニックを起こすシチュエーションだが、予め報告を受けていた二人は少し驚いたものの、落ち着きながら状況確認する事に。

Bは念の為にと持ってきていた、エアガンに装着している熱感応式暗視装置(拳大サイズながら三桁万円する軍用品)を起動させ、女性が体温と質量を持つこの世の存在である事を確認し、隣で双眼鏡を覗いていたAに報告。
Aは自分がCとDを迎えに行くので、Bはこのまま待機して後続のメンバー達と合流するよう指示すると、監視小屋への近道へ入っていった。

それから暫くして後続のメンバー達がBと合流し、女性の事を説明してる最中にAがCとDを連れて戻り、全員でどうするかと思案していたら、深夜の山奥を乗り手の頭の悪さを知らせるような音を響かせながら、一台のワンボックスが県道を下って来た。

このまま女性と遭遇したらパニック起こして事故るんじゃ?と心配していたら、案の定急ブレーキの音が聞こえ、分岐点にワンボックスが急停止。
衝突音が聞こえていないので大丈夫だとは思ったが、まさか女性を牽いてないだろうな?と心配しつつも、厄介事に巻き込まれたくないと言う心理が働き、見つからないよう普段のゲームで培った隠密技術を使い、コソコソと接近するメンバー達。

顔が視認出来る距離迄近づき確認したところ、二十代前半に見える半泣き状態の女性が、車に乗っていたと思われる同年代の小太りの男性(デブ)と、如何にもホスト風な男性(チャラ男)二人組と言い争っていた。

聞こえてくる会話から三人は知り合いらしく、「何だよ痴情のもつれかよ・・・」と思いつつも、目の前で繰り広げられる修羅場を見守るメンバー達。

緊張もほぐれ軽い疲労感の中、折角だからとEが持ってきていたビデオを回し始めた。

B:「こらこら駄目だろー」
E:「えー別にいいじゃーんw」

ビデオを構えながらおちゃらけるEと、それを軽く窘めるB。
口論は続き、最初はへらへらしていた男達も、女性からの罵倒に対し段々と言葉が荒く成りだした時、Aが三人の動向に注視しながらもメンバーに集まるよう指示した。

A:「あんまり関わりたくないけれど、そろそろ出て行って止めようと思う。まあまず無いとは思うが、逆ギレして襲いかかってくるような事があったら、各自、出来るだけ穏便に制圧するように」

最後に凶器扱いされない様、銃や武器になりそうな装備を外すよう指示し、制圧方法の打ち合わせをしていた時、深夜の山奥に甲高い打撃音が響く。

ついに暴力沙汰か!?と思ったメンバー達が次の瞬間見たものは、ビンタをした姿勢のまま肩で息をしている女性と、頬を抑えワンボックスカーにもたれ掛かるチャラ男だった。

メンバー達に緊張が走る中、ビンタをかました女性は男達を尻目に、何故か県道からフィールドへ向かう私道へと入り、入口にある立ち入り禁止と書かれた看板付の虎ロープを跨ぎ、砂利道を奥へと進み出した。

その行動に驚きつつも、そろそろ止めに入るかと思ったその時、ホーンの音を響かせながらワンボックスカーが急発進、そのまま私道へと侵入し虎ロープを引き千切りながら、砂利道を歩いていた女性へ突っ込んでいった。

ワンボックスカーは女性に肉薄するも、接触寸前で急停止、スライドドアを開け飛び出してきたチャラ男が、驚いてへたり込んでいた女性の腕を取り罵声を浴びせる。

A:「全員制圧準備!ガキ共にここでのルールを教えてやれ!」

怒気を含んだAの言葉にメンバー達は立ち上がり、打ち合わせ通り配置に付き合図を待つ。
そしてチャラ男が女性を無理やり車に押し込めようとした時、Aが「キィエエエエエエエエエエエエ!!」剣道で鍛えられた雄叫びを上げた。
ギリースーツ(短冊状の布で作られた潜伏用の擬装服、見た目は○リゾー)を着たAが森の中から出現、それを合図に道路脇の茂みからメンバー達が飛び出した。

Aチーム
Aはそのまま車へ突撃、轢かれないよう右前輪側からフロントガラスにへばり付き、Aが「たぁぁぁをかぁぁぁえせぇぇぇぇ」と奇声を上げ、それを見て運転席でパニック状態になっているデブを後目に、Bが開いている窓から素早く車のキーを抜き取り、Cがドアを開け二人掛かりでデブを引きずり出して確保。

Dチーム
車にへばり付く怒りの○リゾーと化したAに驚き、右手で女性の手を掴んだまま硬直していたチャラ男の背後から、DとEが音を立てずに接近、Dが素早くチャラ男の左腕を背中側に捻り上げ、そのまま車に押し付けて確保し、同じく固まっていた女性をEが保護。

B:「デブクリア!」
D:「チャラ男クリア!」

怒りの○リゾー出現から一分足らず、男達の無力化完了の報告と共に全ては終わり、深夜の山には拘束された男達の恐怖の悲鳴が響いていた。

ワンボックスカーの突撃時に転倒した女性の応急処置をしている間、Aが地主に電話で事のあらましを説明していると、パニック状態から回復したチャラ男が土嚢袋を被ったまま暴れ出した為、未だ硬直していたデブと街灯を挟んで抱き合うようにくくり付け、いわゆる座位状態にして放置。

30分後、連絡しておいた地主が奥さんの運転する車で到着、電話で事のあらましを説明はしていたが、土嚢袋を被せられ街灯に拘束されていた男達と、○リゾー姿のAを筆頭に夜戦用の装備をした異形の集団に、二人は一瞬言葉を失った。

引き千切られた虎ロープと女性への暴行シーンの証拠映像を見て、最近娘さんを嫁に出したばかりの地主と奥さんブチ切れ、即地元警察へ連絡し、更に30分後、パトカー二台と救急車が到着。

地主と奥さんにドン引きされた経験を元に、この時点でメンバーは私服に着替えており、見た目は普通のオッサン&青年達に見えてたが、土嚢袋を被せられて拘束されていた男達に警官達はドン引き、女性を乗せた救急車と男達を乗せたパトカーが出発してすぐ、警官が「署の方で詳しいお話を聞かせて貰えませんか?」と残っていた警官に言われ、俺もついて行くと言う地主さんをAの車に乗せ、制圧に参加したメンバー達は山を下りる事に。

その後、証拠映像や地主と女性からの説明によりメンバー達はお咎め無し、女性も転倒時の擦り傷以外に特に怪我は無かったが、きちんと診断書を取り、不法侵入並びに器物破損として訴えると言う地主に、弁護士を紹介して貰い、前科が付くことを恐れた男達は全面降伏、慰謝料と二度と近付かないと言う書面を制作し示談が成立。

それを確認した地主は虎ロープ代と弁護士費用のみを請求、支払い確認後訴えを取り下げた。

その後、どこからか怒りの○リゾー改め○田坊の噂が地元に広がり、不法投棄も少なくなったそうじゃ。

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