十年くらい前のある日の朝。
通勤途中で踏切で電車が通過するのを待っていたら、向こう側の踏切で同じく信号待ちをしている人達の先頭に妙に虚ろな表情をした4・50代の男性を見つけた。
最初に彼を見たとき、俺は一瞬、何故か嫌な予感を覚えた。
左側から来る特急列車の音が次第に近づくにつれ、何故か俺の心臓の鼓動は速くなっていった。
「あっ!」
俺なのか、又は誰かがそう叫んだのは、電車が踏切を通過したのと同じタイミングだったと思う。
バシャァ!
ギギギギギギィィィィィ!!!
水を入れた風船を思い切り叩き割った時のような音がして、同時に俺の右足へ衝撃が走った。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、一秒後、俺の胸元の白いワイシャツとネクタイが綺麗なピンクに染まっているのを見て、何となく俺は理解した。
と同時に俺の足下に、先ほど右足に当たっただろうモノを見つけた。
スーツに腕を通したままの、砕けた左腕。
肩と手首の部分から骨が見えていた。
特急列車の急ブレーキの音と、同時に近くで聞こえる多くの悲鳴。
俺は恐ろしい戦慄を背中に覚えながら、恐る恐る右へ振り向いた。
傍に立っていた女子中学生と男性が俺と同じく血まみれになったまましゃがみ込んで何やら叫んでいるのが分かった。
踏切から線路沿いのいたる所に泡状の液体とピンク色の物体が散乱し、少し離れた先には白子のようなものが一直線に延びているのが見えた。
傍にいたワゴン車のボンネットや窓、足下のアスファルト、脇の警報機に至るまで見事に血に染まり、どす黒い光沢を発している。
踏切棒も妖しい光沢と共に、瑞々しいピンク色の何かがぶら下がっているのが見えた。
騒然とした現場は、明らかに日常から遠くかけ離れた別の次元の出来事だった。
その様なことがあって以来、俺は白子を見るのが怖くなってしまった。
文章下手だが、自分の経験を語りたくなったので思い切って書いてみた。