タブー

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

俺の母親は真面目で温厚で、父が死んでからも介護の仕事を続けながら4人の子供を育ててくれた。
母が怒ったり泣いたりする所も、人の悪口どころか軽い愚痴を漏らした所すらも見たことがない。

小2のときの話。
深夜兄二人と同室の部屋で寝ていると、母に「火事だ!」とたたき起こされ家の外へ逃げた。
「ついにうちでも事故が・・・」とか考えてたことだけは覚えてるけど、それ以上のことはパニックで頭にない。
外から家を見ると、どこからも火は出ていなかった。

次男と妹は泣いてた。
俺は長男と祖母にくっついて、わけもわからず立ちすくんでた。

どれくらい時間がすぎたのかも覚えてない。

突然母が「嘘でーす」と言って笑い出した。
見たこともないような爆笑だった。

本当にわけがわからなかった。
それからベッドに戻るまでの記憶はない。

次の日から母は何事もなかったように家族に接してきた。
この日のことは今でもうちのタブーの一つ。

中学に上がる前の春休み。
妹を除いた兄弟が祖母に集められ、父の死が不倫相手との心中だったと聞いた。
子供には優しい父だったけど、長男が産まれたときも孕ませた不倫相手と逃げたりと女癖は酷かったらしく、その度に不倫相手側の家族とも酷く揉めたらしい。

妹の病気のこともあったし、今思うとあれは溜まりに溜まったストレスが一気に弾けての行動だったのかなと思う。

ちなみ母は、毎日父の墓参りに行ってる。
父の話もちょっとしたタブーだ。

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