ある若いカップルが、車で山道を急いでいました。
日もとっぷりと暮れた暗い山道です。
カーラジオからは、精神病院から抜け出した老人のことが報じられていました。
そんな時、突然車が故障してしまったのです。
助けを呼ぶためには山を下って民家のある村まで行かないといけません。
彼氏は彼女をひとり車に残し、山を降りることにしました。
ひとり残された彼女はドアをしっかりロックし、ひたすら彼の帰りを待ちました。
どれくらい待ったでしょうか?
車のトランクのあたりから、ズル、ズル・・・と重いものを引き摺るような音が聞こえてきました。
それは遠ざかりも近づきもせず、一定のリズムを刻んでいます。
恐怖に身を震わせながら振り向いてみましたが、暗闇が濃くてよく見えません。
逃げだそうにも、何やらわけの分からないものが蠢く暗闇に飛び出してゆく勇気などありません。
そのまま時間だけが過ぎてゆきました。
彼女は自分のいる車を照らす眩しいライトで我にかえりました。
ズル、ズル。
相変わらず無気味な音は聞こえていますが、目の前には救助隊が駆け付けていました。
「お嬢さん、もう大丈夫。
ゆっくり車を降りてください。
でもいいですか、決して車の後ろを振り向いてはだめですよ」
救助隊にうながされ、車外に足を踏み出した彼女。
しかし、両方の足で立ち上がった瞬間、ふと気になって後ろを振り向いてしまいました。
彼女の目に映ったのは、首をとられて車のすぐ後ろの木に吊るされた、ボーイフレンドの無惨な惨死体でした。
トランクにだらんと垂れ下がった足が、風にゆられて車を擦っていたのでした。