遺体を外すのもかなり難儀

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

私の祖父は昔、瀬戸内海で漁師をしていた。

祖父の漁船は装備がたいしたことがなく、祖父は経験と感で魚群を探して釣りをしていた。

ある日、祖父がいつもどおり一本釣りで漁をしていると、近くに最新鋭の装備をつけた同じ漁業組合の漁師が、トローリング漁をしながら祖父の漁船の側を通っていった。

祖父は何気なく、いつも漁師仲間にするように手を振った。
その漁師は腕を大きく、ブンブンと左右に振っている。
顔見知りでもなければ通常ならこれで終わりである。

しかし、その漁師はいつまでたっても手を振るのを止めない。
遠ざかっていくその最新鋭の漁船のエンジン音にまぎれて「ドドドドド・・・すけ・・・ド・・・れ・・・・・・ドドドドド・・・」と聞こえてくる。

不信に思った祖父は、糸を巻き上げ、その漁船の後を追った。
横につけたとき、何が起こっているかすべてを理解した。

トローリング漁で網を巻き上げる機械に、漁師が右腕から肩あたりまでを巻き込まれていた。
気絶しているのか、すでに事切れているのか・・・。
漁師はピクリとも動かない・・・。

その漁船はトローリング中で、低速ではあるがゆっくりと動いていたので、横につけて乗ることはできない。
たとえ、ロープなどで固定しても、祖父の非力な漁船では、もって行かれるのがオチだろう。

祖父は仕方なく、その漁船が四国の沖のほうにゆっくりゆっくりと走り去るのを後ろ目に、漁港へと船を走らせた。

漁港で何が起きたかを説明すると、漁に出ていない漁船や連絡が取れる漁船を総動員して、捜索が始まった。

数時間後沖に向かっていたその漁船は、なぜか四国のほうに行かずに、近くの岩場で座礁していたらしい。

結局、その漁師は発見されたときは腰あたりまで巻き込まれて亡くなっていて、機械から遺体を外すのもかなり難儀したそうだ。

そして洒落にならないのは、その漁船は格安で売り出され、今もどこかでトローリング漁を行っている、ということだろう。

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