基地外は病院送りに

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

20年前の話。

小学校1年の夏休み、埼玉にあるイトコの家に家族で遊びに行った。
俺んちは関西在住だったんで、子供ながらに遠出=ハイテンション。
で、イトコ達(男2、女1)も久しぶりに遊ぶって事で、普段なら絶対にしないんだが、なぜか全員はしゃぎまくりで、仏間でキャッチボールを開始。

ボールが祖父の遺影に当たり、祖母がそれを目撃。
当然、すっごい怒られて、俺達は「晩ご飯まで外で遊んでろ!」と放り出された。

二時間くらい近くの公園で遊び、辺りが薄暗くなり始めた。

そろそろ帰るべき・・・とは思ってたものの、家に帰ると、仏間でキャッチボールしてた事をまた蒸し返されるのでは、と内心嫌でたまらなかった。

怒られたのは自分達のせいなのに、そこはまだ感情優先で動く小学校低学年の俺達。
俺をふくめ、みんなまだ帰りたくないって話になり、「誰か家の人が向かえにくるまで公園にいよう」って事になった。

しばらく、イトコ達と砂山で遊んでたんだが、ふと周りを見回してみると公園に残ってるのは俺達だけになってた。
なぜか急に心細くなり、早く誰か迎えにこないかな~と思った時、チャリに乗った人物がこちらに近づいてきた。

最初は家の人?と思ったんだが、近づいてくるにつれて違うとわかった。
それはじんべいを着た若い兄ちゃんだったんだが、なんだか雰囲気がおかしい。

若い兄:「あのさ、君達、ピンクの水玉のスカートの女の子見なかった?」

「見てません」、と俺達が答えると「本当に?君達と同じくらいの子なんだけど。こっちに来たはずなんだけど。あのさ、ピンクの水玉のスカートはいててさ、君達ぐらいの女の子で。公園に来てるはずなんだけど、知らない?ピンクの水玉のスカートはいてて、本当に知らない?」と、壊れたテープレコーダーのように同じことを繰り返しはじめた。

怖くなった俺達は再度「知りません」と言ったんだが、兄ちゃんはおかまいなしに「女の子なんだけどね、ピンクの水玉のスカートはいてて・・・」を繰り返す。
変な人だ、どうしよう、どうしよう!と、みんなと目配せしてたら兄ちゃんがいきなり「じゃあもういい!君がおいで!」と叫び、一番近くにいた俺の腕をひっぱった。

え!?え!?と何がなんだが分らず、恐怖から声もでなくて、チャリにまたがってる兄ちゃんにずるずると引きずられる俺。

イトコ達もパニくってた様子だが、一番、最年少のイトコ(女)が大声で泣き出した。すると「あんた、何やってんだ!!!」と男の人の声がした。

見ると犬の散歩をしてたおじさんが、こっちに向かってきてる。
兄ちゃんは俺の手を離すと、猛スピードでチャリで逃げてった。

その後はあんまり覚えてないんだが、とにかく俺をふくめ全員で大泣きしながら、助けてくれたおじさんに家まで送ってもらった。

うちに無事についた安堵感から俺は、気を失ってしまったんだが、後日、イトコの両親が教えてくれた。
昨日、俺を連れて行こうとした兄ちゃんは、町内でも有名な基地外らしい。

ただ一人息子なので基地外の両親が溺愛してて、なまじっか金持ちだった事もあり、奇行(他人の家の窓ガラスを意味不明な事を叫びながら割ったり)も大目の示談金と共に「どうか穏便に・・・」と事を済ませていたそうだ。

ところが数年前、それでは済まない事がおきた。

何がキッカケかわからないが、基地外が小学校低学年の子供達に性的ないたずらをするようになった。

詳細は知らないが、男女見境いなく、気に入った子を襲うようになったらしい。
さすがに学校や町内で大問題になり、基地外両親もかくまいきれなくった。

結果、重度に精神を病んでる上に知的障害者という事もあり、基地外は病院送りに。
ところが送り込まれた病院の管理がずさんだったのか、それとも20年前の精神病院はそんなもんだったのかわからないが、俺達が公園にいた日、基地外は病院を脱走していたのだった。

そして、盗んだチャリで走り回ってたら、薄暗い公園で遊んでた俺達を発見し、見事に俺がターゲット第一号になってしまった。
基地外兄ちゃんが着てた、じんべいだと思ってたものは入院患者の病院服だった。

話を知った両親は、速攻俺を連れて関西に引き上げ・・・。

「近所にそんな奴がいるなら何で早めに教えないんだ!」と親同士はケンカになるし、俺はトラウマになるし、夏休みは台無し、イトコ達とはそれを機に疎遠・・・もう本当に最悪な夏だった。

それにしても、あの時、散歩中のおじさんが通らなければ、と思うと本当に洒落にならん。

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