タクシーに乗せた客の怖い話

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

あれは年の瀬も迫った、寒い寒い日のことでした。

友人宅で飲み始め、いつものように話に花が咲き、気付いたら深夜も2時を回っています。
まだまだ話したい気分ではありましたが、翌日も仕事だったため、さすがに切り上げることにしました。
友人宅から自宅まではタクシーで30分もかかりません。

外に出ると、来る時には降ってなかった雨が降ってます。
一瞬友人宅で傘を借りようかとも思いましたが、ちょっと先の大通りまで出ればすぐにタクシーはつかまるはずです。
意を決して小走りにと思った瞬間、後ろからヘッドライトが。

友人宅の前の道もそこそこ広いのですが、深夜にはあまり車は通りません。
ただ時間も時間なので、もしやと振り返ってみると、やっぱりタクシーでした。

大通りに抜けようとでもしてたのでしょう、何にしてもすぐにタクシーが捕まったのはラッキーでした。
手を上げタクシーに乗り込みます。
自宅の周りは一通だらけで駅からの方が説明しやすいので、最寄りの駅を告げると、タクシーが走り出します。

走り出すとすぐに僕は携帯を取り出します。
と言うのも、ほとんどの運転手さんは後ろで携帯を開けばあまり話しかけてきません。
運転手さんとの会話が嫌いな訳ではありませんが、できることならほっといてほしい。
そんな意を込めて僕はいつも携帯を開きます。

しかし今回は通用しませんでした。
早速運転手さんが話しかけてきます。
後ろからルームミラーでちらっと見た限りではまだ40代前半、タクシーの運転手さんでは若い方でしょうか。

運転手「いや~急に雨降ってきましたねぇ」

僕「あぁ、やっぱり降り始めなんですね」

運転手「あれ、お客さんは仕事かなんかですか?」

僕「いや、友達んちで飲んでまして」

運転手「あぁそうでしたか。いやぁ、やっぱり不況なんですかね。この時間だとお客さんもいないですもんねぇ」

僕「ですか。やっぱりお客さん少ないですか?」

運転手「いやぁもうホント少ないんですよ。いや、今日も夕方くらいから走らせてるんですけどね、もう全然ですよ。夜は夜で駅につけても近場ばかりでしょ。こうやって走らせて捕まえるくらいしかなくてねぇ。いやぁ今日はお客さんいてラッキーでしたよ」と、話し好きな運転手さんです。

僕ももうこのあたりで携帯をしまい、話に付き合うことにしました。

運転手「お客さんは仕事何してんですか?」

僕「運送業って言うんですかね」

運転手「あぁ運送屋さんも大変でしょ」

僕「まぁ仕事は少ないですよね」

運転手「お客さん歳はいくつなんですか?」

僕「34ですけど・・・」

運転手「あぁじゃあもう会社でも中堅ですねぇ(笑)」

僕「いやいや、まだまだペーペーで」

運転手「そうですかぁ?またまたぁ。もう会社長いんですか?」

僕「そうですね。でも会社入ったのはちょっと遅かったんで」

運転手「あれ、お客さんは結婚とかは?」

僕「いや、まだなんですよ」

「まぁなかなか出会いもねぇ」と、結構突っ込んだ質問するなぁ、なんて思いながらもしばらく話してましたが、途中で僕、ちょっと思い付いたことがありまして。

前から思ってたんですが、タクシーで一度やってみたいことがあったんです。
あのね、テレビとかでよく聞くんですが、怖い話をする芸能人が、怖い話をよくタクシーの運転手さんから仕入れるって聞いたことありません?中には行くとこないのに、わざわざタクシーに乗って「何か怖い話知りません?」って聞くらしいです。
それをずっと前から一度やってみたかったんです。

家まではまだ15分ほどあります。
酔いも手伝ったのもありまして、頃合いを見て、案外すんなり切り出せました。

僕「あの、運転手さんって何か怖い話とか持ってたりしないんですか?」

運転手「え?怖い話ですか・・・?ん~」

僕「何かタクシーの話とかってよく聞くじゃないですか」

運転手「そうですねぇ・・・あぁ、一つだけ・・・いやでもね、怖いかどうか分からないですよ」

「どんなんですか?」

運転手「いやね、私ってだいたい似たようなとこを回るんですよ。ほら、あまり知らないとこ走ると道に困るでしょう。お客さんによってはかなり怒るしね。それが嫌なもんだから。走るのってもうホントこの界隈なんです。それでね・・・あぁお客さん、あの事件知ってます?ほら先月にストーカー殺人ってあったの。あれ?お客さんち近いんじゃないんですか?」そう言われて思い出しました。

確かに同じ区内で先月殺人事件がありました。
内容はあまり詳しく知りませんでしたが、ちょっとしたニュースになってました。

「あぁ、何かありましたよねぇ。あれってストーカーなんですか?」

運転手「そうみたいですよ。でね、あれって、殺されたのは男なんですって」

「え?男がストーカーされてたってことですか?」

運転手「そうそう、私も新聞で読んだんですけどね。殺されたのってまだ若い男の人なんですけど、ずっとストーカーされてたんですって。なんだか無言電話とかがたくさんかかってきたりしたみたいでね。警察とかにも相談してたみたいですよ」

僕「やっぱり警察って何にもしてくんないんですかね?」

運転手「みたいですよ。それでね。その事件があった日なんですけど。あぁ時間も今くらいだったかなぁ。その現場の近くをね、私通ったんですよ」

運転手「まぁちょっと現場からは少しだけ離れてたんですけどね。そこで女の人乗っけたんです。もちろんその時はまだ事件のことなんか知らないじゃないですか。でね、今思えばですよ。今思えば、ちょっとおかしかったかなぁって」

僕「その女の人が?」

運転手「いや、でもね。別にそんなに暗い感じとかそんなのはなくてですね。髪の毛も長いとかじゃないしね、私とも普通に話してるんですよ」

僕「あ~じゃあまぁ、そんなにおかしくはないんですかね?」

運転手「そうなんです。でもねまぁ行き先は隣の区なんですけど、そのお客さんの家の近くまで行ったらですね。急に慌てだしまして。忘れ物したから戻ってくれって言うんです。でもまぁそんなことは結構あるんですよ。だから私も戻りますよね」

僕「ですよねぇ」

運転手「そしたらね。戻る途中で、今度は急に降ろしてくれって言うんですよ」

僕「ほぉ」

運転手「私も何かしたかなぁって思ったんですけど、特に何も失礼なこと言ったりはしてないはずなんですよね。でもまぁ降ろせって言うから」

僕「はいはい」

運転手「そしたらですね、まぁ気のせいだとは思うんです。だけどね、お金もらう時なんですけど、小さなバッグから財布を出した時にね。赤いハンカチみたいなやつと、ナイフみたいのがチラっと見えたんですよ。いやまぁ見間違えだと思うんですけどねぇ。あの赤いハンカチも、今思うと血っぽかったかなぁって」

うわわわ・・・「えっ、えっ?それって・・・」

運転手「はい。殺人犯を乗っけてたかもなんですよ。でも別に確信があるとかじゃないでしょ。なんか警察に言うのもねぇ」

僕「えっ?言ってないんですか?」

運転手「だってほら、見間違いですしきっと。余計な事を言うのもねぇ」

僕「いや、それは言った方が・・・」

運転手「いやいや、なんか面倒なのもねぇ。でね、後で知ったんですけど。その犯行時間ってのがまた、その女の人乗っけた時間に近いんですよ」

僕「じゃあなおさら言わなきゃじゃ・・・あれ、犯人って、まだ・・・ですよね?」

運転手「あぁ。まだ捕まってはないみたいですよね」

僕「え?じゃあやっぱり・・・」

運転手「いやいや(笑)ないみたいですよ。この前、週刊誌にその事件載ってたから読んだらですね。犯人って男なんですって」

僕「え?男なんすか?」

運転手「らしいんですよ(笑)ストーカーって言っても、ほとんど無言電話とか嫌がらせばかりだったんですって。要するに誰も姿を見てない。それで調べたら、男が男をストーカーだって」

僕「そうなんですか?」

運転手「みたいですよ。でも警察もねぇ、そこまで判っても犯人捕まえられないんだからねぇ」

僕「ですねぇ」

僕「あ、それで、その女の人は何だったんでしょうね?」

運転手「それだけが未だに分からないんですよ・・・」

ここで丁度自宅に到着しました。

運転手「すいませんね。こんな話で良かったですか?」

僕「いやいや、十分怖いですそれ。だってもしかしたら犯人乗っけてたかもってことですよね」

運転手「しかもお客さんの座ってたとこに(笑)」と、ここで疑問が。

僕「でもあれですね。誰も姿を見てないのに、何で犯人は男って分かったんですかね?」

運転手「あぁそう言われればそうですね・・・」まぁ何にしてもすごい話でした。

僕「なんか良いネタありがとうございました」

運転手「いえいえ、ありがとうございました~お忘れ物などないように」タクシーを降りました。

話しはここまででですが、妙にリアルで幽霊話よりもぞっとした話でした。

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