
イサオさんは村の人気者。
泳ぎも走りも木登りも村一番。
じいさんと母親とイサオさんの3人暮らし。
父親は炭鉱で亡くなった。
働き盛りで亡くなった父親の代わりにじいさんと母親が働き、当然イサオさんも手伝っていた。
村でたちの悪い風邪が流行り、イサオさんも風邪をひいた。
運が悪かったのか、高熱が続き頭が痛む。
耳も聞こえにくい。
今の時代なら恐らく中耳炎と診断されるだろうが医者自体が村にいない。
元気だったはずのイサオさん、こじらせて寝込んでしまった。
困ったのはじいさんと母親。
いつまでも寝かせておくわけにもいかない。
2週間程あとにはじいさんと母親と一緒に働くイサオさんの姿が。
頭には黄色く染まった包帯が。
耳から膿がでるそうだ。
「イサオさん大丈夫?」と、近所の人から聞かれるようになる。
ぼんやりと空を見ている事が多いようだ。
包帯は、度々母親がかえてはいるようだか赤と黄色が混ざって汚れている。
道の真ん中を笑いながら歩くイサオさん。
以前のように溌剌とした姿はない。
「じった、じった、じった」足をバタバタさせながら叫ぶイサオさん。
目は虚ろ。
地団駄を踏んでる姿と叫び声から、村の皆は『じった』と呼ぶようになる。
泳ぎを教わる子供もおらず、じったは一人で村を歩く。
子供が五人村のはずれで遊んでいる。
近づくじったを囃し立てる。
「じったじったじった」
「じったじったじった」
「じったじったじった」
「じったじったじった」
「ぎゃーーーー。」
じったが手に持った箸を子供の耳に突き刺した。
一人、二人、三人、走って家まで逃げかえる。
じったに近づく者は無くなった。
オチも何もないけど祖母ちゃんから聞いた話。