そんな死に方は嫌だ

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

仕事帰りに同僚と一杯飲んだYさんは、同僚と別れたあと、JRのSK線A駅のホームで電車を待っていた。

都心からS県へと向かうSK線のこの時間のホームはかなり混んでいたが、到着する電車からは乗換のため大勢の客が降りるので、ホーム中間の階段前に並んでいると、空席に有りつける事もあった。

S県へ向かう下り方面行きの電車は、このA駅から快速運転となって、途中を通過する物もあったが、駅のアナウンスが次は各駅停車と告げている。

『各駅停車か。じゃ便所に行っておくか』

下り線のホームで先頭に並んでいたYさんは、終点のK駅までの道中を考えた。
各駅停車だと一時間弱はかかる。

例え空席に座れても途中で降りる事になったら面倒だ。
次の快速電車に乗ろうと思い、我慢していたトイレへと向かった。

列を抜け出し、あふれそうな人混みをよけて階段に着いた時、ちょうど各駅停車がホームへ入って来た。

甲高い女の悲鳴が聞こえて、ギョッとしたYさんが振り向くと、先ほどまでYさんの後ろに立っていた男が、バッタリと倒れるのが見えた。

映画とかでしか見た事のない、本当に気を失った人間が手も付かずに、顔面から倒れ込むのがハッキリと見えた。

列車はさっきまでYさんが並んでいた場所を通りすぎて急停車した。

幸い男はホームから落ちた様子は無かった。
だがYさんはしっかりと見てしまったのだ。
倒れる寸前に、男が口から泡のような物を吹き出しながら両手を振りまわしていたのを。

何かの発作を起こしていたらしい男の両手は、もしもYさんが列の先頭に居たらきっとYさんを突き飛ばす事になっていたのを。

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