俺の後輩が実際に体験した話です。
後輩たちはその日、数人で暇を持て余しドライブをしていたらしいんです。
車を走らせるうち、地元の海にたどり着きました。
時刻は夕方の五時頃。
夏ならいざ知らず、その時季節は秋。
海の駐車場には後輩たちの車以外には二、三台がまばらに駐車してあっただけだったそうです。
後輩たちは、せっかく海に来たんだから泳ぐとまではいかないものの、砂浜の方へ行ってみよう、ということで車を停め砂浜の方へ向かったそうです。
何だかんだと砂浜で喋っているうち、すっかり日も暮れ、さすがに腹も減ったし帰るか、ということになりました。
駐車場へ戻ってみると、もう自分たち以外の車は無いかと思われましたが、一台だけ残っていたそうです。
すると、後輩の友達のひとりが不思議そうに言ったそうです。
後輩の友達:「あの車、俺たちが来たときにも停めてあったよな。まだいたのか」
それに反応して、皆で駐車場の薄暗いライトに照らされた黒いワゴンを見ました。
普段ならこれと言って気にすることでもないのですが、何故かその時は皆、少し様子がおかしい、と感じたそうです。
そこで、後輩たちは車に近づいてみることにしました。
近づいていくと、異変に気付きました。
黒いワゴンのマフラーから運転席の窓に差し込まれた筒のようなもの。
「おい、やばいぞ!!」
すぐに自殺をしているんだと気付いた後輩たちは、皆で車に駆け寄り、窓を覗き込みました。
そこには、すでに意識が無いのかぐったりとしている女性と、その息子とみられる男の子がいました。
急いで警察に連絡すると同時に、後輩たちは何とか親子を助けようとしました。
しかし、ドアは開きません。
仕方なく窓を破ろうとするものの、いざ壊そうとしてもなかなか壊れず、なんとか自分たちの車に積んであったスコップを使って窓を破ったそうです。
そうこうしているうち、パトカーが到着し、あとは警察に任せる、ということになったそうです。
後日、警察から簡単な表彰をしてもらうという事で、後輩たちは警察署を訪ねたそうです。
その時に警察官から聞いた話らしいのですが、その自殺を図った親子のうち、お子さんはすでに亡くなっていたらしいのですが、母親だけが一命を取り留めたらしいのです。
しかし母親は自分だけが生き残ってしまい子供だけを殺してしまった事で精神を病み、運ばれた病院で暴れて大変だったらしいです。
更に、自分を助けてくれた後輩たちをも逆恨みしていたらしいのです。
母親:「どうして自分だけ生きているんだ、どうして死なせてくれなかった」
そう騒ぎたてていたのだそうです。
ただ、とてもすぐには病院から出られる状態でもないし、心配はしなくてもいい、と警察官からは言われたらしいです。
その後、その女性がどうなったのかについては、さすがに後輩たちにもわからないそうです。
そんな事件があり、後輩は今でも黒いワゴンを見ると、どうしてもあの母親が乗っていそうな気がしてならないらしいです。