刑務所に、一人の男が収容された。
彼は刑務所の仲間に、自分が事件に巻き込まれた経緯を打ち明けたことがある。
彼の語った話が真実であれば、彼の刑務所送りは不当なものだ。
彼は、数日前から家の中で、金品が紛失していることに不審を抱いていた。
しかし、部屋の中が荒らされた形跡もないので、それほど気にしなかったのだ。
ある日、彼が帰宅すると、誰も居ないはずの部屋に誰かの気配がする。
彼が部屋の明かりを付けると、見知らぬ男が突然に彼を殴りつけた。
次の瞬間、倒れ込んだ彼の足に、激痛が走る。
男が彼の足に、包丁を突き刺したのだ。
彼は、痛みと恐ろしさのあまり、目の前にあったベッドの下に潜り込んだ。
その時、運悪く彼と交際していた恋人が、部屋に入って来た。
男は何と、彼女の腹部を刺し、そのまま逃げ出したのだ。
堪らず彼は、「大丈夫か!」と、彼女に呼び掛けてみた。
彼女は、荒い息を吐きながら、返事をする。
彼女は、まだ生きていたのだ。
彼は、彼女をベッドに運び、救急車を呼ぼうと考えた。
しかし、足に傷を負った彼は、彼女を抱きかかえた時、倒れ込んでしまう。
その時に、彼女は頭を強く打ったため、病院に運ばれたものの、数時間後に亡くなってしまったそうだ。
彼はその後、精神に異常をきたし、「俺が彼女を、殺してしまった」と泣きながら叫び続けていたため、彼女を殺した犯人として警察に逮捕された。
彼の話を聞いた刑務所の男は、現在、まっとうな仕事をしながら普通に暮らしている。
そして、飲み屋に行く度に、この話をみんなに聞かせるのだ。
「あいつは、本当に可哀想な奴だ」
「刑務所で、自殺してしまった・・・」
「この話を知った奴は、あいつと、あいつの彼女の幽霊が現れるかもしれない」
「でも、本当に怖いのは、あいつらの幽霊なんかじゃない」
「本当の真犯人が、捕まっていないことなんだ」
そう呟き、いつも飲み潰れるのであった。