弱者のフリをする老婆

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

5年くらい前の話。

帰宅途中の新宿駅西口(小田急入り口?)で、車椅子から転げ落ちた老婆がいた。
思わず駆け寄って「大丈夫ですか?」と声を掛けると、「見て分からないの!?これが大丈夫に見える!?そう思うならさっさと助け起こしなさい」と、いきなり命令口調で抱かかえ方まで指示されて、荷物を一杯付けた車椅子に座らせるように言った。

言われるがままズボンのベルトを持って車椅子に座らせると今度は、「『大丈夫ですか』なんて言葉を掛ける前にやる事があるでしょ!?まず手を出さないことには福祉やボランティアなんて語る資格無いのよ!!」と説教が始まった。

いえ、私以前病院勤めてましたが、ボランティアなんてやった事無いんですが。
今も絡まれて仕方無くあんたを車椅子に戻しただけなんですが。
しかもあんた、歩けますね?本当に歩けない人の足腰じゃないことは経験から分かるんですが。

浮浪者風の格好ながら匂いも全くしないし薄化粧までしている。

説教を黙って聴く私。
周りには黒山の人だかり。

当時の職場はDQNと基地外だらけで、この程度の罵倒なぞ日常茶飯事だったので私は何とも無かったのだけど、近くにいたおばさん二人組が気を利かせたらしく、「変なのに絡まれちゃって大変ねぇ。一体何があったの?」と話し掛けて来た。

その時、私はこのおばさん達のことを『何だかんだ言ってこのお祭りの成り行き知りたいだけじゃん』と感じた。

何故か老婆よりおばさん達の方が下衆な気がして、老婆の罵倒が続く中、「いや、私はこの人の話を聞いているだけですから!」と結構きつめに言ってしまった。
散り行く人々、逃げるようにその場を去るおばさん二人組。
そして態度豹変の老婆。
いきなり笑顔になり私の手を握り、ジュースを2本くれた。

以下老婆の話の要約。
自分のような浮浪者で身障者はいつも社会から苛められている。
今日も駅から外に出ようとしたら警備員の人に目の前でドアを閉められ、転んでしまった。

警備員はニヤニヤしているだけで周りの人も助けてくれようとしない。
そこに私が登場。

罵倒したことは悪かった。
さっきのおばさん達のような人種が一番嫌い。

自分は普段、池袋や新宿でボランティアの関する啓蒙活動をしている。
ニュースステーションや雑誌にも取り上げられた。

支援してくれる仲間も一杯いる。
何らかの裁判(人権問題?)に関わっている。

その日はお互い笑顔で別れた。
ジュースはドンキで買ったと思われる新品で変なところは無かった。
彼氏にこの話をしたところ、ジュースは捨てた方がいいと言われたが、私は飲んでしまった。

数日後、新宿で数人の若者に囲まれてピアニカを演奏する老婆を見た。

それから半年くらいして、彼氏からその老婆らしき人が死んだというニュースを聞いた。

池袋の交差点で車椅子から落ちて身動き出来なくなっていたところを車に轢かれたらしい。

あの老婆は本当に足が不自由だったのか?
本当に浮浪者だったのか?

健常者が社会的弱者の振りをしてボランティア精神の重要性を訴えていたのか?
ちょっとした歩み寄りをした人をボランティアにいきなり引きずり込むやり方は正しいのか?

今回も私のような『誰か』を釣る為に仕組んで失敗したのではないのか?

この話の成り行き全てが私にとって後味が悪い。
ボランティアとか善行とか偽善とかに思うところ多い分、余計に。

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