あの女にどこかで見られている

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

とある友人に聞いた話。

彼女は数年前、とある学習塾に勤めていた。
小中学生対象の、進学塾というよりは苦手補強のための塾だ。

田舎だったこともありのんびりとした雰囲気で、夏には肝試し大会、冬にはクリスマス会が催されるような家庭的な塾だった。

職員は塾長を含めた女性ばかりの四人。
女性同士の付き合いにありがちな面倒臭さも多少はあったが、和気あいあいとした雰囲気で、友人は気に入っていたという。

ある時、その塾に五人目となる職員が入ってきた。
友人より少し年上の、やはり女性だったのだが、この新入りがなかなかに曲者だった。

新入りは悪い人ではないこともすぐにわかったが、頓珍漢というか間が抜けているというか、やることなすことどこかズレており、失敗も多かった。
そのくせ、とにかく何てもしりたがり、首を突っ込んできた。
受け持ちでない授業や生徒のことだけでなく、塾で過去に起こったこと、生徒や職員の家庭の事情、職員同士のたわいもない雑談の中身まで、新入りの耳に届く範囲の話題には、呼ばれもしないのに全て首を突っ込んで、求められてもいない、しかもどこかズレたアドバイスをしてきた。

他の職員がどんなに眉を顰めても、「ちょっと遠慮して」とはっきり口にされるまでは、決して引き下がらなかった。
いつしか新入りは煙たがられ白い目で見られるようになったが、まるでそんなもの意に介さないように、相変わらずどの話にも首を突っ込み、わかっているのかどうかわからない相槌を打っていた。

そんな新入りだったが、半年ほどで塾を去ることになった。
なんでも夫の転勤で引っ越すのだという。
おおっぴらには言わないが、友人を含めた全職員が、ほっと胸をなでおろした。

「短い間でしたがお世話になりました」

新入りはそう言って、職員一人ひとりに別れの品をくれた。
それは定番のハンカチだったが、包装紙の中には小さなメッセージカードも入っていた。

仕事終わりに、同僚と二人で何気なくそのメッセージカードを開こうとした時だった。

「ひっ」

同僚が小さな悲鳴をあげ、メッセージカードを取り落とした。
友人は自分の足元に落ちたカードを拾おうとして、目を疑った。

『彼とのデート、◯◯モールはやめたほうがいいですよ。保護者もたくさん来てるんだから』

そう、カードには書かれていた。

ありがちな話だが、同僚は生徒の保護者と浮気をしていた。
友人はそのことを本人から相談されて知っていたが、他は誰も浮気のことは知らないはずだった。
秘密のデートを、新入りはこっそりどこかで見かけていたのだろうか。

友人は恐る恐る、自分の分のメッセージカードを見た。
そして、先ほどの同僚と同じような悲鳴をあげたという。

「カードには、職場ではもちろん、家族にも話したことのない秘密について、アドバイスめいたことが書いてあったの。ゾッとしたわ」

友人はその時のことを思い出し、恐怖と嫌悪感からか眉をひそめた。

「なんでその新入りさんは、秘密を知ってたのかな?」
「知らないわよ。でも、他の職員のカードにも、同じようなことが書かれてたみたい。そのあとは、もう大変。みんな疑心暗鬼でギスギスして、結局、半年後には職員が総入れ替えになってたわ」

それもそうだろう。
私は頷いた。

「ところで、書かれてた秘密って?」
「言うわけないでしょ」

私の問いかけを一蹴した後、「でも」と友人は続けた。

「あの時書かれてたアドバイス、あれは的確だったわ。後になって正直助かった。仕事できなかったくせの、そういうところが余計気持ち悪いんだけどね」

友人は身震いをしてそう言った。

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