死ぬ直前の人を見たかもしれない

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

洒落怖、とまでは言えないかもしれないけど、ここに話せそうな体験をしたから投下。

先週の仕事帰りの話。
その日は友達の家で晩御飯を食べる約束をしてたんだ。

それでいつもと違う帰り道を自転車で飛ばしてた。
その途中の交差点の信号で止まり、斜向かいの角に立つボロアパートが視界に入った。

アパートの二階への階段を登りきった所に女がいて、古いRPGの登場人物みたいに足踏みして前を見据えてた。

普段こういう多少変な人は見なかったことにして素通りするんだけど、その時は目が釘付けになってしまった。
行動は奇々怪界なのに、表情も服装も纏う雰囲気も何もかも普通の人のそれだったからかもしれない。

一体何の為にここに?
女は前を見据えてる様だが、そこからは何が見えるのかな?
・・・などと思案するも答えは見えない。

その時、信号が変わり前進、横断歩道を一先ず渡りきる。
そのまま前に進んで国道を超えた所に友達の家がある。
けれど逡巡した僕はアパートの方に向かう信号の前で待機、携帯を取り出した。

信号待ちに携帯に夢中になって青信号を何度も渡り過ごしちゃう人、を演じて張り込む事にした。

ここでこうしてる目的があるなら、見届けたい。
誰かを待ってるなら、それを見届けよう。
なんて意気込んで。

今思えば、俺もなかなかに怪しい。
けれどそんな自分の小さな狂気に気付かなかった。

10分経っても女は相変わらず足踏みをしてた。
寒さや待たせてる友達の事とかが気になりだして、もはやその奇行の理由なんざ、どうでもよくなりだした。

次信号が変わったら友達の家に向かうと心に決めた。
なんなら信号を渡り、通り過ぎざまに女を間近で見よう、と。

で、間近で見た女は、交差点越しに見るより若く見えた。

二十歳前後だろうか?
女性というより女の子と形容するのが相応しく思う。

しかし、近くで見ても彼女自身から病んでる人、壊れてる人独特の何かを感じ取る事が出来なかった。

それからまっすぐ友達の家に行き、ご飯を食べ、ゲームをして盛り上がり、11時くらいになって帰路につく事にした。

帰り道でふと、友達の家に向かう途中に見かけた女の事を思い出す。
前述の通り、どうでも良くなってたけれど、何となく一目見てから帰ろうと思った。

4時間は友達の家に居たから、普通に考えたら居ないはずなのに。

途中、遠くの方の建物の壁に赤が点滅してた。
まさかと思ってペダルに込めたチカラを強める。

息を切らして辿り着いた件のボロアパートの前に、救急車が止まってた。
ランプは回してる、けどサイレンは流してない。

野次馬が数人いて、近くにいたおばさんに声を掛け事情を聞いた。

そこの二階に住む大学生が、首を吊ってたのを発見されたらしい。
突っ込んで聞くと女の子とのことだ。

足踏みして前を見据える女の子の姿が脳裏に浮かぶ。
アパートの二階に目を向けたら、その姿が見える気がして顔を上げれない。

知らない人なのに声かけて、おばさんが不審がらずに答えてくれたのは、非日常に居合わせたという不思議な仲間意識が生まれてたからかもしれない。

僕とおばさんだけじゃない。
この場にいるみんなと。

だから、事情を聞いた後は彼女から話題がそれて、井戸端会議みたいな様子になってた。

俺もその会話に加わってたが心はそこにあらずで、話した内容も覚えてない。
気付いたら家に向かう道を自転車を押して歩いたが、あの人たちとどんな別れの挨拶をしたかも覚えてない。

ただただ後悔と、さっきまで見てた人が死んだかもしれない・・・という根源的な恐ろしさで溺れかけていた。

調べたけれど大人の自殺行為はわざわざ報道されないらしい。
彼女の安否は分からない。

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