その車は轢き癖がついている・・・

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

昔、運転代行のバイトで山奥へ客の車を走らせてたら、飛び出してきた4つ足らしき正体不明の獣を轢いてしまった。

「申し訳ありません。今何か動物を轢いてしまったみたいです」と助手席の客に詫びると「狸よ狸。イタチもおるけど今の音は狸。ゴリッって骨が砕ける音がしたろ?ありゃ狸。イタチは轢いても音せんのよ。毎晩のことじゃけ、気にせんでええわ」と言われた。

客に申し訳ないというより、轢き殺してしまった狸に詫びたい気持ちで一杯だった。

自分の車でヘビを轢いたり、フロントガラスにぶつかって来た鳥を殺してしまったことはあったが、四つ足の動物は初めてだったのでショックが大きかった。

客を送り届け事務所へ戻る車中、相方のおじさんにそのことを話すと、「俺みたいに道路に寝てる人を轢くよりはマシだよ」と慰めてくれた。

なんでもおじさんは、深夜に客を送り届け待機所へ戻る途中、道路に寝ている人を轢いてしまったらしい。

その後、おじさんは取調べを受けたが、検死や聞き込み情報から被害者はその1時間前にタクシーに撥ねられ即死状態で横たわっていたことがわかり、おじさんが罪に問われることはなかったという。

「その死人を轢いちゃったのは、あんたが今乗ってるこの車よ。がははは」

翌日僕はバイトを辞めた。

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