おばあさんが帰りたかった場所

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

知り合いのお姉さんの田舎であった話。

あるおばあさんがガンを克服した。
高齢だからもう無理だ、と言われていたので、まさに奇跡の生還。
村の人達はすごく喜んでいた。

しかし、おばあさんの息子と孫は、退院して来たおばあさんを大声で怒鳴ったり、暴力を振るったりして虐めまくった。

その酷い有り様に知り合いのお姉さんが止めに入ると「ばあさんは認知症で暴れるからやむを得ないんだ」と言う。

他人から見ればそんな事は無かったそうですが、そう言うと「身内にしか分からない事だから!」と。

お姉さんはその後も見兼ねて何度も止めに入ったり、役所に相談に行ったらしい。

一方おばあさんは、虐められても息子と孫の為にご飯の支度をしたり身の回りの世話をしたりしていた。

ある夜、お姉さんの所に息子が「うちのばあさん見なかったか?」と訊ねて来た。
お姉さんが事情を聞くと「認知症で徘徊するようになった」と。
でもお姉さんは毎日の様に息子達から「出て行け!」と罵られていたのを知っていたから、もしかして家出をしたのでは・・・・・・と嫌な予感がしたそうです。

おばあさんはもう目も余り見えなくなっていて、特に暗くなるともう殆ど何も見えない状態でした。
その夜は村中総出でおばあさんを探したそうです。

翌朝になって、近所の海に漂うおばあさんが見つかりました。

おばあさんの家は元々漁師で、旦那さんも息子も漁師だったのですが、旦那さんの死後息子は漁師を辞め、おばあさんを虐める様になったそうです。
でも漁師をしていた頃は一家で仲良く漁に出て、楽しく暮らしていたと。

おばあさんの事は事故として処理されたけれど、何も見えない暗闇の中、楽しかった日々を思い出す様に波の音に引き寄せられたのではないか、そしてせっかくガンを克服して帰って来たのに、これではまるで悲しむ為にだけ戻って来たみたいだなあと・・・。

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