僕が友人を裏切った結果

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

あれは中学校2年の夏休みの事でした。

親友だった双子のS兄弟が長野に転校してしまうというので、僕の6畳間で夜を語り明かす事になりました。

僕たちはトランプや桃太郎電鉄などをしながら最後の夜を楽しんでいたのですが、当時クーラーのなかった僕の6畳間は3人の熱気で溢れかえり、窓を全開にしても扇風機を回しても、ジュース、アイスでも凌げないほどの猛暑となっていました。

午前3時頃、限界点を超えた僕らは、プールに行く事にしました。

この時間に開いていてタダで入れるプール。
そうです。
学校のプールです。

S兄弟は「水着はもう引越しの荷物の中だよ」と言ってましたが、「裸でいいじゃん。こんな時間だから大丈夫だよ。」と言うと2人は納得し、3人は意気揚々と母校の小学校のプールへと向かいました。

プールに着いた僕らは早速全裸になって暗い水面へ飛び込みました。

闇夜のプールではしゃぐ事数分。
突然「誰だー!」という声と共にスポットライトが突きつけられました。

僕らは着るものも着ず、急いで逃げました。
しばらく逃げて息をついていると、S兄の姿が見当たりません。
僕とS弟はとりあえず学校に戻ってみました。

服を取りにプールに戻ろうとすると、プールサイドにS兄の姿が。
彼は服を取ろうとした所を捕まったらしく、手に服を握り締めたまま警備員に全裸で説教されていました。

会話は聞き取れませんでしたが、懐中電灯でライトアップされたS兄の顔は明らかに泣いています。

「助けなきゃ」

そう思った僕とS弟は警備員をおびき出し、その隙にS兄を逃がすという作戦を立てました。
そして僕らは力一杯「キャー!」と悲鳴を上げました。

ところがおびき出されたのは警備員さんではなく、付近を巡回中だったお巡りさんでした。

「どうした?」

ゆっくり近づいてくる警官を見ながら僕は、(待てよ、僕が警官だったら全裸でびしょ濡れの少年が夜中に奇声を発しているのを見たらどうするだろう?)というような事がチラッと頭をよぎりました。

次の瞬間僕は、走っていました。
S弟を置き去りにして。

振り返ってからスタートの遅れたS弟は警官に捕まっていました。
僕はそのまま一心不乱に走り続けました。

明けて次の日の夕方、僕は2人の見送りに行けませんでした。
その後、S兄弟の自白と現場に残った衣服から僕の事もバレ、親、学校、警察から怒られた挙げ句、悲鳴のせいで飛び起きて窓から偶然見たという同級生に、全裸でランニングの姿を目撃され、1人残った僕は学校で変態扱いを受け続けました。

そしてそのまま暗い気持ちで年末。

僕は見送りに行けなかった事とこれら全ての事についての詫び状を兼ねた年賀状を長野に住むS兄弟に送りました。

翌年、返事は来ました。
そこには妙に他人行儀な感じで『あけましておめでとう来年からは年賀状を送って頂かなくて結構です』

そして小さな文字で『逆メロス』とだけ書いてありました。

「逆メロス」の意味は、当時中学校で勉強していた『走れメロス』から推測できます。

これ以来、毎年夏が来る度にS兄の泣き顔と僕が走り出した時のかすかに聞こえたS弟の「あっ・・・」という声が思い出されます。

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