何かヤバい仕事をさせられたかもしれない

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

怖いって言うか、個人的にはちょっと悲しい話って感じ。

大学の頃の話。

前にバイトしてた先のバーテン(笑瓶似)から「自分の店開いたから忙しい時だけバイトしないか」と聞かれて、そのままズルズル週3くらいで入ってた。

店は雑居ビルの中のとても小さなバーで、自分は2卓だか3卓だかしかないテーブルへの配膳とか洗い物とか掃除とか、たまにカウンターの一人客の話相手とかもしてた。

あるドカ雪の日、バーテンの恩人?旧友?なのかわからないけど、偉そうな背の低いおっさん(カエル似)が来た。

バーテンが他の客の相手をしてる間、おっさんが自分にパソコンできるかと尋ねてきたので「そんなに得意ってわけじゃないけど、大学では毎日使ってます」と答えた。

その何日かあと、そう言ったことを後悔した。

店におっさんがやってきて、バーテンとしばらく飲んだあと、自分の方に来た。

おっさんはノートPCと書類と、電話番号の書かれた紙切れを自分に渡して「ちょっとした入力作業してを欲しい。持ち帰っていいから、終わったらここに電話して」と頼んできた。

バーテンは知ってるみたいだし、小遣いになると思って引き受けることにした。

PCの中身は入力フォーム的なものが出来上がってるエクセルファイル。
個人名が入力されていて、それが書類の名義と一致していた。

書類にはマイナスから始まる日付と金額が打ち出されていた。
淡々と利息がついていき、減っていく人も、増えっぱなしの人もいた。

入力を終えて、おっさんに渡した。
おっさんはニヤニヤしながら「早いな、お疲れ」と言って店を出ていった。

それから何週間かした後、突然おっさんから電話が掛かってきて「30分くらいしたら迎えに行くから用意しとけ」と言われた。

住所は教えてないはずなのにおっさんは本当に30分くらいでアパートまで来た。

大雪の中、かなり長い間おっさんと生きた心地のしないドライブをして、周りの景色が全然知らないド田舎になったところで降ろされた。

それからデスク一つがぽつんとある部屋に入れられて、同じノートPCと、かなり増えた書類の束を渡された。
おっさんはそのまま出掛けた。

カンヅメ状態でヤケクソ気味に書類を片付けてタバコ吸ってたらおっさんが牛丼買って帰ってきた。

「入力終わりました。この後バイトなんで帰ります」と自分が帰りたいアピールをしても、おっさんは「いいから食えよ。バーテンには言ってあるから」と言って牛丼を押し付けてきた。

自分は売られたと思った。
バーテンを恨んだ。

3日くらい、行方不明になっていた。

携帯はおっさんに預かられ、朝から夜まで入力を続けた。

風呂は使えたけどずっと同じ服を着続けていたから、段々臭ってきた。

突然訪れた最後の日に携帯を返されて「また近々頼むわ。このことはあんま人に言うなよ」と言われアパートに戻された。

何日か後に記帳すると、知らない名義から結構な額が振り込まれていた。

それから自分は携帯を新規契約し、入金確認した後、口座もすぐに解約した。

大学の友人や教授にはちょっと実家に帰ってたと嘘をついた。

バーテンにはバイトをやめさせてくれと頼んだ。

おっさんに自分を売ったのはバーテンだと思っていたから、「こんな事がまたあったらたまったもんじゃない。悪いけどもう辞めさしてもらいます」と強めに言った。

バーテンは白々しく「何かあったの」と聞いてきたので「知ってるだろうけど」と嫌味に前振りをしてから洗いざらい話した。

バーテンは酒をくれた。
それから謝られた。

おっさんが何者なのか尋ねてもバーテンはヘラヘラ苦笑いしていた。

怒ることも言い返すこともできず、自分はそれっきりそこのバイトをやめた。

卒業間近になって辞めたきり避けていたバイト先の近くを通りがかった。

バーテンの店はなくなって、テナント募集の広告が貼られていた。

おっさんとバーテンの電話番号だけは、着信拒否のためだけに未だに控えてある。

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