小学校5年生の時、進学塾の春季講座を受ける事になった。
私は受験を希望していなかったんだけど、友達が受講すると聞いて、私の母も申し込んだ。
確か「休みになるとお昼ご飯用意しなきゃいけないのが面倒くさい」みたいな理由からだったと思う。
春季講座の前にテストがあって、その結果でクラスが振り分けられる。
やる気はなかったけど、テストが好きだった私は意外にも上から2番目のクラスに入った。
さらに中期テストでクラスを再編成される。
当然だけど上から順に合格実績のある講師が担当している為、下のクラスに入った人は中期テストを機に上位クラスに入ろうと必死だった。
私のクラスは皆がライバル意識むき出しで、休み時間になっても楽しいおしゃべりは無いし、トイレに立つ子もあまりいなかった。
とにかく勉強勉強で「エラいとこに来てしまったな・・・」と初日から気分が落ち込んだ。
受験もしない、勉強もやる気がない自分には居心地が悪いと思ったのかな。
話とは関係ないけど隣の席の子が『必勝!』ハチマキをしてるのも嫌だった。
2日目。
母に「前払いなんだから今さら辞めるなんてダメ」とありがたいお言葉をいただいて塾に向かう。
この時から足が重く気分が悪かったけど、嫌だと思っている場所に向かっているからだろうと自分を納得させた。
なんとか塾に着き、今日も殺伐とした雰囲気で受講。
1限が終わった時、また体がだるく感じた。
暖房がガンガン効いているせいか、やけにのどが渇く。
だけど体は寒い。
隣の『必勝!』に「寒くない?」と聞いたらシカトされた。
2限の最中、体がどんどん寒くなる気がしてきた。
周りを見回しても皆授業に集中してる様子で、特に異変はない。
だけど私は寒くて寒くて脱いでおいたコートを着て受講し続けた。
そのうち少し寒さがおさまり、いつの間にか眠ってしまったようだ。
気が付くと3限が始まったところだった。
寒気は収まったけど、のどの渇きがさっきよりもひどくなっていた。
私は「トイレに行きます」と言って立ち上がった。
「おう。ちゃんと休み時間に行っとけよ~」
先生は黒板に何か書きながら振り向くこともなく許可をくれた。
教室から廊下に出ると、顔に冷たい空気が当たって気持ち良かった。
給水器から水を出し、ガブガブ飲んだお陰でのどの渇きも収まった。
涼しい廊下でしばらくぼ~っとしてから教室に戻る。
ガチャッとドアを開けると、先生が顔を上げて私を見た。
「戻ったか」と一言だけつぶやき、机上のテキストに視線を落とした直後にまた顔を上げ、突然大きな声で「こっちに来るな!!!」と怒鳴った。
先生の表情はとても怯えているように見えた。
私は突然怒鳴られ、訳が分からず立ちすくむ・・・。
先生の声で生徒もこちらを振り向く。
私が立っている付近に座っていた男の子が振り返った瞬間「うわぁ!」と驚いたのが見えた。
さらに別の子は立ち上がって教壇の方へ後ずさり。
教室内は「キャー!!」だの「嫌ぁぁ!!」だの叫び声が飛び交うパニック状態。
私だけが事態を把握できず、入り口に立たされていた。
先生が何か言っているのが見えたけど、生徒の叫び声で聞こえない。
聞こえるようにと思い、足を一歩前へ踏み出すと「来るな!廊下に出ろ!こっちに来るな!」と言われているのが分かった。
言われた内容は分かったけれど、何故私が教室に入ってはいけないのか、何故みんなは教壇の方へ逃げたのかが分からない。
『必勝!』なんて「どうしよう・・・」とか言って泣いてる。
私はもうパニックで身動きが取れなかった。
そこへ騒ぎが聞こえたのか別のクラスの先生が入ってきた。
最初は「何事だ?」みたいな感じだったけど、入り口に立っている私を見て「こっちに来なさい」と廊下へ連れ出した。
「事務室へ行こう」と歩き出した先生の後ろをついて行く。
「大丈夫?」と聞かれても、私は頷くのがやっとだった。
聞きたい事はたくさんあるのに、頭が混乱して何も話せなかった。
事務室へ着くと、先生は自分の教室へ戻ってしまった。
代わりに別の講師?が私のところへ来て、体温計を差し出した。
「とりあえず熱を測ってみようね。その間に電話しておくから。」
その時になって私は自分が熱いことにやっと気が付いた。
41℃もあったのだ。
自分でも気が付かなかったのに、なんであの講師はすぐ分かったんだろう?
「まいったなぁ~おうちの人、誰もいないみたい。」
さっきの講師が戻ってきたので、早速聞いてみた。
私「どうして熱があるって分かったんですか?」
講師「誰だって分かるよ~。鏡持ってきてあげようか?」
差し出された鏡を見て驚いた。
顔中に赤い斑点が無数に出ていた。
自分の顔が恐ろしく見えた。
手のひら足の裏以外、全身赤い斑点だらけになっていた。
私は風疹にかかってしまったのだった。
そこで謎は全て解けました。
伝染病だからみんな逃げてたのね・・・。
完治までに約2週間かかりました。
受験生にとっては病気がいちばん恐ろしいのかもしれません。