弟の起点で助かった。

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

日常に潜む怖い話を2つ程ご紹介。

【これにつかまって】
和歌山の三畳敷でかなりギリギリのところまで行って波を見物していた。
まだ中学生のときだったかな。
かなり遠く離れたところにいる人がわっと逃げ出したんだ。
びっくりして振り返ると、まだ遠いんだけど、結構高い波がやってきてた。

確実に俺らの呑み込まれる位置ぐらい。
スゲー焦った・・・。

今から走って逃げても絶対間に合わないし、どうしようってオロオロしていたら、弟が、何を思ったのか海岸のほう、波の近くに走っていくんだよ。

えっ?て思って、慌てて後を追うと、「これ、これにつかまって!」ってと、三畳敷に一体化して突き出た岩?をギューって抱きしめていた。
俺も慌てて真似をして、大きく息を吸い込んで、息を止めた。

波は大きくかぶった。
全身が波に飲み込まれて、そのあと、もの凄い力で沖のほうに戻っていった。
返り波っていうのかな、真っ白なスープみたいになった波。

あれ、もの凄い力だよ。
例えば海難事故に遭う怪談で、波を無数の小さな手によく喩えられる(ていうか小さい手そのものだったっていうか)ことが多いけど、本当にそう。
引っ張られる・・・。

ここで手を離したらマジやばいと思って、とにかくもう必死で岩をつかんでた。
波が引いたら全身びしょ濡れ。
その辺にいた人は飲み込まれた俺らを死んだかも・・・と思ったらしくって、注目の的だった。

それにしても海って怖い。
弟いなかったら俺確実に逃げ遅れて死んでたぜ。
天気の悪い日は海に近づかないようにしましょう・・・。

【知らぬ存ぜぬの一点張り】
最近そいつは2ヶ月タイに行ってきた。
まぁ日本円で千円も出せば一泊できるような安宿に泊まったらしい。
どこの国でもそうなのかも知れないが、やはり日本人旅行者は狙われる。

一応部屋には鍵をロックし、窓の鍵もキチンと閉めた。
タイは湯船に入る習慣がないため、友人はシャワーを浴びていた。
鼻歌交じりで髪を洗っていた時、突然、声が聞こえた。

「あーあーあーあーあーああああああああああぁぁぁあああああああああああああ」

女の高い声。悲鳴・・・・・・・・・?
さすがに焦ったらしい。
声は直ぐ近くで唸っている声だ。

風呂から出よう。
そう思って、風呂のドアノブを廻したとき、驚愕した。

下のほうに知らぬ誰かの手が挟まっている。
女の手。
細い指。

友人は発狂寸前になったらしいが、なんとか理性を保ち、思い切りドアを閉めた。
すると、その手はバッと引いて、部屋のドアをバタンと閉める音が聞こえた。

確かに人間である女の声であり、人間である女の手であった。
それでもその少しはみ出している手を見た瞬間、気がおかしくなりそうになったと言っていた。
フロントに尋ねてみても、知らぬ存ぜぬの一点張り。

「人間だと思う、いや絶対人間だ」

俺には、自分にそう言い聞かせているようにも聞こえたが、何も言わなかった。
そして最後の疑問だけが残った。

なんで、部屋に入ることができたのだろうか・・・?

アジアの奥地ではフロントもヤバイ奴が多いらしい。

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