3年前ぐらいの時期的に今頃の話。
俺は定時制高校に通ってたのよ。
学校はもちろん私服で校則も正直ゆるかった。
だから免許も勝手に取って通学に単車やら車で通う人も結構いたりしてさ、まぁ先生にバレたら免許証を取り上げられるけど誰も気にしてないって感じ。
んでまぁ同じクラスの友達がドリフト好きで、田舎だから走れる山も結構あるから学校帰り行こうってなったのよ。
んで仲間集めて車4台、6人で向かった。
そこの山は地元の走り屋では有名で、休日となればギャラリー含め大勢集まる場所でさ。
その日は平日だったから俺ら以外いなかったんだけど、人いない方が練習できるからあえて平日に行った。
上って下ってを繰り返し2時間ぐらい車流して、そろそろ休憩しようかってなってギャラリーが集まるスペースに車停めて休憩してた。
そしたら一台の白い乗用車がすげぇ勢いで近づいてきた。
おっ!誰だ?って感じに皆で見たわけよ。
けどその車は明らかにドリフト向きじゃないのはわかった。
車種はよく覚えてないがホント普通の車。
しかも、その時夜中の2時・・・。
ドリフト連中以外普段ほとんど誰も使わない山道に”なんで来るんだ?”ってその時不思議だった。
んでそのまま勢いよく俺らの横通り過ぎたと思ったら、ガードレールのないコーナーで吸い込まれるように崖から落ちていった。
一瞬何が起きたのかわからなくて呆然としてたが、「おい、事故ヤベーわ!」と言って仲間の一人が落ちた場所に走って行った。
それに続いて皆も走っていく。
崖を覗いて見ると5、6メートル下に確かに車はあった。
幸いにも太い木に正面からめり込む感じで引っ掛かってた。
その光景を見てア然としてると、運転席から20代後半の男が出てきた。
俺:「大丈夫ですかー?!」
運転手:「あ大丈夫、大丈夫」と、ぜか軽快に言い・・・自力で登ってきた。
俺:「警察呼びましょうか?一人ですか?」
運転手:「あぁ一人だよ。飲みすぎたわ、警察は自分から言いますから呼ばんといて」
そう言ってその運転手は誰かに電話しだした。
そんな男を見て酒臭くないし酔ってるように見えなくとても違和感を感じたが、それに気づいたのは後からだった。
電話を終えたその男は道端に座り込みうつむいてた。
おでこの左からうっすら血が出てるのが見えたので俺は車にあった絆創膏(ばんそうこ)を持って行こうとするとなぜか仲間が「なんかあいつ変わってるし変に巻き込まれたくないからほかっとけ」と止めようとする。
けど俺は「あんな事故すれば誰だっておかしくなるだろ?」とその男に絆創膏を渡しに行った。
「あ、ありがとうございます」とちょっとおちゃらけた感じにその男が答えた。
よく見ると坊主頭に血の付いたTシャツにジャージのズボン、サンダル。
部屋着みたいな格好だった。
そしてまたしばらくすると車がまた来た。
どうやらその男の知り合いのようだ。
黒のハイエースバンだった。
その運転手は俺らに何も言わずにそそくさとその車に乗って山を下っていった。
皆目の前で起きた事故にテンションも上がり、それから一時間ぐらい車で話してた。
結局落ちてる車はあの男がどうにかするだろ・・・って事で警察にも連絡せず、というかよくよく考えたら俺らここで違法行為をしているし、それはダメだろって事でその日はそのまま帰った。
それから一週間ほどしたある日、仲間の一人が焦った感じで話し掛けてきた。
それはあの日の山の事故が新聞やらニュースでとり上げられたらしい。
そんな驚くような事じゃないがそいつが焦ったような感じだった理由は別にあった・・・。
「つかあの事故で人が死んでるんだぞ」と友達が言った。
俺:「はっ?」
俺は一瞬意味がわからなかったがニュースやら新聞では女性二人死亡と報道されてたらしい。
俺:「男一人しかいなかったし何かの間違いじゃね?」
そう聞くがニュースでは場所も車も俺達が居合わせた事故に間違いないと言う。
俺は半信半疑でその日の新聞を見てみた。
確かにあの事故は取り上げられてあった。
しかし、俺がゾッとしたのは、こう書かれていたからだ。
女性二人が死亡・・・17歳と22歳
一人は助手席で頭を強く打っており死亡・・・。
一人はトランクからブルーシートに巻かれた状態で発見。
運転手行方不明・・・。
それからその山は警察の出入りも厳しくなり、キャッツアイを轢かれてドリフト連中は集まらなくなった。
もし、あの時車の中を見ていたらと思うといろいろ考えてしまう・・・。
未だあの男は捕まっていないと思う。