宗教戦争の時の鏡

カテゴリー「怨念・呪い」

俺が兄の友達から聞いた話。

彼が高校一年の時、彼の叔父が欧州へ旅行に行き、お土産をくれた。
立派な青銅の縁取りのついた鏡である。
彼は叔父に、こんな高そうな物を貰って良いのかと訊ねたところ、実際高かったそうだが良いらしい。
「英語も通じねえ古道具屋で、値切って値切って買ったんだ。それでも結構したんだぞ。大事にしろよ?」
どうしてそこまでしてこれを・・・?と彼は思ったが、礼を言って、鏡を部屋の机の上に置いた。

その日の晩。
部屋の中で誰かがしゃべっている気がして、彼は目を覚ました。
最初は夢かと思ったらしいが、どうやら話し声は実際にしているようだ。
机の方から小さい、談笑するような声が聞こえる。

――あ、鏡だ。

直感で彼はそう思ったらしい。
訳がわからなくなって、彼はベッドから起き上がり、おもむろに鏡を手にとって覗き込んだ。

家族が談笑していた。

父親らしき男、母親らしき女、娘らしき少女の3人が、深緑のソファに腰掛けて談笑していた。
3人とも顔立ちは日本人ではなく西洋人のようで、髪の色も薄い。
そして、お金持ちのようだ。
使用人らしき人物がちらちらと映っている。

これはすごい!すごい物を叔父さんはくれた!

そう思い、彼は階下で寝ている両親に鏡を見せようと両親の元に向かった。

階段にさしかかった時に、激しい衝撃音が鳴った。
驚いた彼がまた鏡を覗き込むと、3人の男が鏡の中央に映っていた。
3人とも体格が良く、武器を持っている。
軍人のようだ。

3人はこちらに背を向けているため顔はわからない。
そして、その向こう側に身を寄せあって怯える先ほどの家族がいる。

一瞬、少女と目が合った気がした。
そして真ん中の男が何かを叫び右腕をあげると、左側にいた男が斧のような物で父親の頭を叩き割った。

飛び散る血。
泣き叫ぶ娘。
気を失う母親。

そこからはもう地獄絵図だった。

男の一人が動かなくなった父親と母親を形がなくなるまで切り刻んでいる傍らで、娘は泣きながら部屋の中を逃げ惑っている。
使用人らしき人はどこにも見えない。
残りの男達は娘が逃げるのを見て楽しんでいるようだったが、それも飽きたらしく、左側の男が立ち上がった。

すぐに捕まる娘。
娘は泣き叫び、こちらを何度も見て助けを求めている。
娘は男に引き摺られ、窓の外に放り投げられた。
悲鳴が遠ざかり、嫌な音が響き、映像は終わった。

鏡は元の鏡に戻り、蒼白になった彼の顔を映していた。

その彼の後ろに誰かが立っていた。
顔はぐしゃぐしゃに潰れている。
髪は淡いブロンド。
服は――先ほどの少女と同じ物。

彼は動けなかった。
背中を嫌な汗がつたう。
少女が手を伸ばしてきた。

肩が曲がり、不自然な方向から生えた腕が迫ってきた。
恐怖に目を瞑った瞬間、ドンッという衝撃を背中に感じ、彼は意識を失った。

「――それで、気付いたら病院にいたわけよ」

すごい音がしたので驚いた両親が階段を見に行くと、彼が階段の下で倒れていたとのこと。
鏡は粉々に割れてて、その破片で額と腕を切り、彼は2針と3針を縫う怪我をした。
また、階段から落ちたせいであばらを骨折していた。

「ありえないだろ?見ろよこの傷。あの後、例の叔父がお見舞いにきたから、文句言ってやったよ。そしたら、何つったと思う?『あれは超有名な宗教戦争の時の鏡だ。すっごいレアなんだぞ』だってさ。普通謝るだろ!まあ、すごい物は見れたと思うけどね・・・」

「・・・ん?ああ、叔父も鏡は見たんじゃないかな?なんか知ってる風だったし。それで俺に譲ってくれたんだと思うよ。でもさ、宗教とか理不尽な理由で殺される時代じゃなくて、本当に良かった」

そう言って、彼は悲しそうな顔をした。

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