鳴く人形(前編)

カテゴリー「怨念・呪い」

※このお話には「鳴く人形(後編)」があります。

俺が小学生の時の話。

家の近所にお寺があってよく遊びに行っていた。
そこには70歳くらいの住職がいて、境内やら敷地やらに入っても、怒らず自由に遊ばせてくれた。

たまにお菓子なんかも出してくれて、俺は近所に住むタカシと放課後はよくそこで過ごしていた。

その寺は近所に多くの檀家をもっていて町内の寄り合いやら、新年会なんかもそこで行っていた。
住職は物腰の柔らかい温和な老人という感じで、町の人たちからの信頼も厚かった。

ある日、俺とタカシがいつものように寺で遊んでいると住職が、おもしろいものを見せてあげよう、と言ってある人形を出してきた。

その人形は15cmくらいの小さめの人形だった。
濃い赤の和服を着て白い顔と長い髪、細くてつぶらな瞳が印象的だった。

市松人形とは少し違って全体的に細身な出で立ちだった。
またかなり古い人形みたいで最初は鮮やかな赤だったと思われる和服の色は黒ずんでいて、ところどころ破れていた。

髪もぼさぼさで、色の落ちた髪の毛は白髪のようにも見えた。
そのためか顔の表情は生気がなく、少女の人形というよりは老女の人形と言った方が正しいような見た目だった。

住職はその人形を俺とタカシの前に出し、人形の頭をつかむと指を立てて少し強めに押した。
すると、「・・・ぁ・・・ぃぎ・・・ぃぃ」と、人形が鳴いたのだ。

俺、タカシ:「すげー。音出した。」

俺とタカシは驚いた。

住職は俺とタカシの驚いた様子をみて少しニヤニヤすると、黙ったまま今度は人形の首に親指を立て、喉をグッと押した。

人形:「・・・ぅぅ・・・ぎぃぃ」

また人形が鳴いた。
さっきとは少し違う鳴き方だ。

俺:「おお。また鳴いた!住職これどうなってんの?」

俺は聞いた。

住職:「さぁのお。ワシも詳しい仕組みはわからん。じゃがおもしろいじゃろ?お前らもやってみるか?」

住職はそう言うと俺とタカシに人形をさしだした。

俺は住職のやったように人形の頭をつかんで軽く握ってみた。
しかし人形は音をださない。
タカシも同じようにしたが人形はなにも反応しなかった。

タカシ:「あれ?音ならないよ。住職どうやるの?」

タカシが聞いた。

住職:「ひひひ。ちょいとコツがあるんじゃよ。ただ少なくてももっと強く押さなきゃの。」

住職は笑いながら言った。

そう言いながら住職は人形を逆さに持ち替えた。
そして今度は人形のヒザを固定し、ヒザから下を普通とは逆に曲げた。

人形の足の関節はミシミシいっていたが住職は気にしない様子だった。

人形:「・・・ぎゃぃぃ・・・ぅぅ・・・」

人形がまた鳴いた。
住職はそれをみて満足そうに笑った。

住職:「別に人形をいたわらなくてもいいんじゃよ。むしろ壊すくらいの気持ちの方がいい声で鳴いてくれるんじゃ。」

住職は言った。

その後、俺とタカシは人形を鳴かせることに成功した。

確かに、ためらわずに強く押したり、曲げたりすると鳴くのである。
別に鳴くポイントがあるわけじゃなく体のいろんな部分を押し曲げしても鳴く。

鳴き方も一定ではなく、いろんなバリエーションがあって、本当にどういう仕組みなのか不思議だった。

ただその人形はどのバリエーションで鳴く時もとても苦しそうに鳴いた。

また古い人形のせいか顔にもシミがあったり、ところどころ色落ちしていたため表情が暗く見える。だから鳴く時は苦悶の表情を浮かべているように見えた。

最初はおもしろがっていた俺も、だんだん気味悪く感じるようになった。

俺:「ねぇ、あきたよー。タカシもう行こうよ。」

俺はタカシに言った。

タカシ:「もうちょっと。もうちょっと。」

タカシはまだ飽きていない様子だ。
住職と一緒にあの手この手で人形を鳴かせて笑っていた。

俺はその日、先に帰った。

その日以降も今まで通り、俺とタカシは寺によく遊びに行っていた。
ただあの日以来、あの人形のことが気になるようになった。

住職は普段は人形を古い木箱の中にしまっていた。
さすがに町内の大人たちに、人形で遊んでいる姿を見られるとまずいと思っていたのだろう。

だだ、たまに俺とタカシのいる前だけ、人形を木箱から取り出して見せつけるかのように鳴かせるのだ。

住職:「実は毎晩これをやるのが日課でな。ひひひ。」

住職はある時こう言っていた。
俺は、毎晩部屋で一人、人形と戯れている老人の姿を想像して、すこしゾッとした。

また、俺には不思議に思っていることがあった。
あれだけ人形に執着している住職だったが・・・人形の扱いはひどくぞんざいだったのだ。

鳴かせる時に乱暴にあつかうのはもちろん、手入れは全くしていない様子だった。
人形は常にボロボロな状態だった。

ある暑い夏の日なんかは、人形を炎天下の中、直射日光のあたる縁側に置いていた。

住職:「こうしておくと、夜いっそういい声で鳴くんじゃっよ。」

住職はニヤニヤして言っていた。

そんな風に人形と関わる住職を知ってからは、俺にとって住職は、温厚で知識豊富な町の賢者というよりはただの気味の悪い老人になっていた。

次第に寺からも足が遠のき、めったに寺の敷地には近づかないようになっていった。
ただタカシはあれからもちょくちょく寺に遊びに行っていたみたいだったが・・・。

1年くらいたったある日、住職は死んだ。
病死と聞いたが詳しくは知らない。

住職の死後、寺は住職の甥が引き継ぐことになった。
その際、寺の大そうじをすることになった。

普段お世話になっている近所の人たちも手伝うことになり、俺やタカシも親に言われて駆り出された。

寺では昔から、心霊写真等の霊的にいわくつきのものを預かる習慣があったそうなのだが、後を継ぐ住職の甥はあまり信心深くないというか、寺にあったそれらまでいっせいに捨てようとしていた。

その中にあの人形もあった。

俺はあの人形が捨てられると思うと安堵した。
しかしその時、タカシ:がその人形をほしいと言いだした。

住職の甥:「君、こんな小汚い人形がほしいの?」

住職の甥はけげんそうに聞いた。

タカシ:「うん。ほしい。」

タカシは言った。

※「鳴く人形(後編)」へ続く

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