最近『目のない人』をよく見かけるようになった。
普通の盲目者ではない。
眼のある位置に、やたら大きく、黒い空洞がある人だ。
街角の何気ないところに立っていて、少し離れた場所から俺をじっと見つめている。
俺からは、たいてい見えづらい距離にいるんだけど、目の空洞はなぜか良く分かる。
たぶん俺はいつか失明するのだろうけど、仕方ない。
俺の家はぶっちゃけた話呪われているのだ。
話しづらいことだけども、俺の父は幼少期、とある小さな山村で暮らしていた。
だが、祖父の兄の和也という男が、隣人を殺したことで、一族ごと村八分にあい、逃げ出すように引っ越した。
引越し先が今俺の住んでるこの家なんだけど・・・
殺人犯の和也なんだけど、祖父が言うにはこれがどうしようもない男だったらしい。
酒を飲んでは、見境なく女に手を出していたそうだ。
放っておくと、人妻であろうが幼女であろうが襲う男だったので、まわりにいる良識ある誰か大抵は祖父だったのだが、和也を止めなければならなかった。
しかし、そうすると和也は激怒し、暴れ出していた。
止めようとした人間に、ひどい暴行を加えていたそうだ。
和也は体がとにかく大きくケンカの強い人間だったため、一度激怒すると誰も止めることはできなかった。
隣家の家長の義男が殺されたのは、和也を止めようとしたのが原因らしい。
奥さんを和也に襲われそうになり、和也を殴ってしまった。
これが和也の逆鱗に触れた。
義男を殴り倒してのしかかり、ひたすら殴り続けた。
義男の家族は和也の怖さに震えるばかりで、何もできなかったそうだ。
義男は動かなくなっても殴り続けられた。
顔は、文字通り潰れ、およそ二倍の大きさまで膨れ上がる。
顔中に紫色のアザが出来、もはや誰の顔だか判別できないほど変形させられたそうであった。
和也は最後に何を思ったか、ピクリとも動かない義男の顔から、両眼球をえぐりだした。
そのまま、目玉を酒瓶に入れ、どこかに持っていってしまったそうだ。
その目玉は帰る途中で酒瓶ごと、川に投げ捨てた・・・と和也は言った。
そのまま目玉は行方知れずとなった。
俺の祖父一家は、お詫びの意味もこめ目玉を探したが、結局見つからずじまいだった。
この一件のために、俺の一家はいわば目玉の呪いというものを受けたそうだ。
和也は俺が生まれた頃に、ひどい病気にかかった。
目玉が両方腐り落ちてしまったそうだ。
原因は不明である。
和也はそのまま病死した。
その頃、祖父も目の病気にかかり右目を失明した。
ほどなくして左目の光も失ってしまった。
父は現在進行形で目の悪い病気にかかっている。
治る見込みはなく、視力がどんどん弱まり失明していくだけらしい。
俺はまだ目の病気をもっていないが、最初に言った目のない人は良く見かける。
いまだ危害を加えられたり、近くに寄ってこられたりはしていないが、彼を見かけるたびに背筋が凍る。
弟も目のない人を見かけたことがあるという。
父も俺と同じ年のころ良く見かけたそうだ。
目のない人＝義男なのかは、俺には良く分からない。
けどなんとなく実感している。
これが呪いって奴なんだな、と。
