パワハラの権化として多くの人々から憎まれ、恐れられていたT専務が、死んだ。
胃潰瘍を患い、ウツ病を発症し、長期休職の末に自宅で首を吊って死んだのである。
彼が精神のバランスを崩したキッカケは、「数字」だった。
ある時期から、「3120」という数字につきまとわれるようになったのだ。
新築した自宅の住所は3-1-20。
会社の内線も、健康診断受診番号も、長男の受験番号に至るまで3120。
やがて、彼は四六時中、戦々恐々とあたりを見回し、「今、3120№の車が通った」とか「あのシャツは3120円だ」とかうめいては、脂汗を流してガタガタ震えるようになった。
それは「数字につきまとわれている」というより、「自ら数字を探しまくっている」ように、周囲の目には映ったという。
なにゆえ、T専務はそれほどにも「3120」を恐れたのか。
彼の家族によると、
「5,6年前にサイジョウ(=3120)という部下に自殺されたのがコタエたようだ」という。
若い部下をイジメ自殺に追いやったぐらいで自責の念にかられる男とも思えないが、彼の中にも若干の人心があったのだろうか。
ちなみに、彼の葬儀が行われたのは都内S区の代々幡斎場(サイジョウ)。
埋葬された墓地の地番も「3区ー120」だった。