友人の話。
釣り仲間たち数人で、山中の貯水池へバス釣りに出かけた。
その池は仲間たちがよく利用している釣り場らしいが、彼は初めてだった。
各自が思い思いの場所に陣取り、竿を振り始める。
「確かにバスは多かったみたいで、アタリも結構頻繁にあったよ。でも、あんまり良い池じゃなかったわ。バスの奴が釣られ慣れしとるっていうか、全然抵抗せん。スゥーっとこちらに引っ張られるままに寄せられてくる。ガタイは大きいのに、全然重くないんよ。“はいはい、どうせリリースしてくれるんじゃろ”って感じをプンプンさせよって。
手抜きというか怠惰というか、魚の癖に人を馬鹿にしとったよ」
そんな微妙な思いを抱きながら釣りを続けていると、グンと竿が撓った。
おお、中には根性のある魚もいたんか!
喜び勇んで格闘に入る。
抵抗を何度もいなしながら漸く釣り上げたのだが、上げてから唖然とした。
釣り上げた魚は異様な姿をしていた。
身体は大きな鮒によく似ていたが、顔が人のそれをしていた。
坊主頭で、彫りが浅くのっぺりとしていたが、どう見ても人面に見える。
白目のない黒目玉を見開き、口をパクパクとさせている。
どう処理するか判断を下せずにいると、横手にいた仲間が気が付いた。
「おおーい!○○がジンメン様上げよった-!」
皆が口々に「マジかー」と言いながら寄ってくる。
「おー、ホンマにジンメン様じゃ。久しぶりに出たのー」
「しゃーない、帰るか。とっとと放しとき」
え、もう帰るんか?
「それが釣れると祟りがあるって言うんじゃ」
「とは言っても、あまり酷い祟りじゃないらしいけど」
「お裾分けなんかされとうないからの。お前、しばらく身の回りに気ぃ付けぇよ」
その日は結局、そこでお開きとなった。
池から帰った後、彼は立て続けに警察に捕まったという。
いずれも軽微な交通違反だが、二週間の間に六回も捕まり、都合六点の違反。
免停かつ違反者講習を受けなければいけない羽目となったそうだ。
「ジンメン様の祟りじゃ、間違いない」
そう言って彼はひどく情け無い顔をしていた。