蝉の鳴く季節になると思い出す。
俺はとある小さな山村で暮らしていた。
地名まではあまり詳しく書けないけれど、とりあえず西の方とだけ。
40度を超す真夏日だった。
俺が勤めていた会社には裏山というものがあるんだが、人が入れないようにフェンスが張ってあった。
ある時俺の友人のAが探検ごっこかなんかの遊びでフェンスに家から持ってきたペンチで穴をあけて山の中に入った。
俺も面白半分で中に入った。
背に照りつける太陽が、裸同然の格好で歩く俺たちの肌を刺す。
かんかんの太陽は、俺たちの顔を照りつけ、目を細めさせる。
山奥に入ってみると中は竹が凄く生えていて昼間なのに凄く薄暗かった。
さらに奥に行って見ると広い場所に出た。
その真ん中に小さな祠(この辺りはあまりおぼえていない)みたいな物があった。
祠のまわりは草も生えておらず、どことなく重苦しい空気に俺は黙って立ち尽くしていた。
しばらくするとAが『なんだろう?』とかいいながら俺の体をつつき始めた。
俺はなんだがすごく気持ち悪くなってAの服をひっぱりながら帰ろうよと言った。
だがそんなことで帰るようなAでもなく俺も一人で帰るような勇気はなく、結局薄暗くなるまでその場所に居た。
Aはその間ずっと俺を触っていた。
俺的には怖いのは祠じゃなくてAだった。
Aはなにかに取り憑かれているかのように俺を触っていた。
しばらくすると友人Aが立ってるんだけどなんかおかしいんだよね。
暗い顔してずっと俯いてる。
すると急に唸り始めた。
「ん゛ぅぅぅううう・・!ん゛ん゛ん゛ぅ・・・!!」
俺はとっさのことで金縛りのように体が動かなくて、唯一の救いは目を瞑ることだけだった。
俺は震えがとまらなかった。
とりあえず「南無阿弥陀仏」って繰り返し唱えた。
するとAの唸り声がピタリと止まった。
『やっと終わった・・・』そう思って少し冷静になった時だった。
ズザッ!ズザッ!
そんな効果音でも聞こえそうなくらい、力強く撫でられ始めた。
本当、遠慮なしに何度も何度も撫でられる感じ。
直接触れてはいないのに、痛みだけがあるような、そんな感じだった。
冷静になったのは本当に一瞬で、撫でられ始めてから恐怖で混乱しちゃって。
とにかくどうしたらいいのか分からなくて。
それでも下腹部を撫でる行為は続いた。
しばらくすると、Aの唸り声が徐々に大きくなっていたことに気づいた。
撫でる強さに比例して、唸り声も大きくなっていたんだ。
もう本当どうしたらいいのか分からなくて、ただただ「俺は何もできない!早く消えてくれ!」って何度も何度も思った。
どれくらいそれが続いただろうか・・・。
もうその時は必死で、ただこれが早く終わることを願い続けた。
すると、願いが届いたのかAの唸り声、撫でる行為、全てが一瞬で止まった。
数分間その場で震えていたが、今すぐここを離れたいという気持ちと、恐怖が入り混じり、ついに決心した俺は一気に走った。
すると、背後から足音が追いかけてきた。
もう怖くて怖くてとにかく走った。
もう無我夢中で。
山を下り家まで走ると、もう足音はうしろから聞こえてこなかった。
ぐしょぐしょに泣きながら家に帰ると、俺の様子がおかしいことに気づいた祖父が居間から走ってやってきた。
「おい!!お前あそこへ行ったのか!」と言われた。
俺は未だに震えが止まらず、行ってないと言った。
「こっちへ来い!」と言われ、庭で全裸にされ、酒を体にぶちまけられた。
そして、少し余った酒を飲めと言われ、震えながら飲んだ。
そして祖父は「仏壇の部屋に行って俺が行くまで出るな」と言った。
俺は当然嫌だよ面倒臭いと言うと祖父は「いいから黙っていけ、それと俺が行くまで何も話すな、誰ともだ」と言いどこかに電話し始めた。
結構な剣幕で言ってきたもんだから俺はお、おうと了解するしかなかった。
んで仏壇の部屋に入って襖を閉めて祖父を待ってたわけだ、すると5分もしないうちに祖父が入ってきて「もう喋ってもいいぞ」と言う。
なんなんだよと聞くと祖父は「お前は○○に憑かれた、今C(近くのお寺の住職?みたいな人)に確認を取ってるが間違いない、お前が見た祠が奉っているのが○○だ」と言った。
当然俺はポカーン状態で・・・は?としか言えなかった
祖父の話だとなんでもその○○ってやつはここ固有のものじゃなくて全国各地に同じようなのがいるみたいなんだ。
んでその○○の情報は他人には言っちゃダメだと、言うとそれを聞いた奴の所にもでてしまうと、そういうものらしいんだ。
んでまぁその日は一日中その仏壇の部屋にいて詳しい事は聞かされないまま、飯も食えないトイレにもいけないで辛かった。
そして翌日、祖父が例のCさんと一緒に来て何かし始めた。
盛り塩っていうのかな、部屋の4隅に皿塩置いたりなんか良く分からないお経唱えてお札貼ったり、怖かった。
んでそのCさんは「今日も一日この部屋に居てもらわないといけないんだ、ごめんね」と言った。
俺は良く分からずには、はいと答えた。
次にCさんは「とりあえず私が居るうちにご飯食べて、後トイレにもいっておいてね」と言った。
ご飯を一緒に食べるくらいは何でもなかったけど、トイレで大を済ますときもドア開けっ放しでCさんが見てるのは恥ずかしかった。
んで一通りすること終えて部屋に戻るとテーブルなんかの家具は全部外に出してあってあるのは真っ白な布団と枕、それにまぁ当然だけど仏壇。
俺はどうすれば?と聞くとCさんは「明日また私が来るまで何も喋らないように、口を開けてもいいけど声は出しちゃだめだ、多分何も無いと思うけど万が一何か怖いと思う事があったらこれを強く握っていなさい」と木片みたいなものを渡された。
この状況が本家八尺様と似てるもんだから俺は思わずCさんに八尺様なんですか?と聞いたらCさんは「そんなものは聞いたことは無いけど、同じようなものは全国にあるとおもうよ」と、関係ないみたいだった。
それでCさんは「それじゃ私と○(祖父)は行くけど、さっき言った事は絶対守ってね、約束だ」と念を押してきたから大丈夫ですと答えた。
Cさんは笑うと祖父を先に部屋から出し廊下に出てから俺の部屋に向かって何かお経みたいなものを唱えてから襖を閉めた。
それからは髪の毛いじったり木片をいじったりして暇を潰してた。
気がつくと日が落ちててそのまま寝た。
その夜は何も変な事は無かった。
朝、変な音で目が覚めた。
何か襖の外から音がする、人の声みたいなそれはどんどん近づいてきた。
俺はというと怖くて怖くて布団に潜って木片を握ってた。
しばらくすると襖が開いた音がした、これはマジでヤバイと思い生きた心地がしなかった。
襖が開いてからも声みたいな音は聞こえていた。
俺が震えていると布団が剥ぎ取られて、目の前には半泣きの父と祖父、それにCさんがいた。
Cさんは「もう喋っても大丈夫、よくがんばったね」といってくれた。
父は俺に抱きついてきて何やら言っている、涙声で聞き取れなかった。
祖父は部屋を見回してなにやら頷いていた。
俺は今の音は?と聞くと3人とも首を傾げていたがCさんがどんな音だった?と聞いたのでなるべく詳しく教えたら「じゃあもう大丈夫だね、本当によかった」と言った。
ほとんど一睡も出来ず、疲労も取れないまま俺は会社に出勤した。
同僚に昨日の話をするも誰も信じてくれず、なにか訴えたかったんだよなどと箸にも棒にも掛からないことを言われす始末だったのを憶えている。
後から父と祖父に聞いた話だけど、父も以前○○に憑かれた事があったらしく、その時も俺のときみたいに部屋に隔離されたらしいんだけど夜目が覚めていろいろ怖い事があったらしい。
んでよく無事だったな的な意味で泣いてたらしい。
さらに言うと父と祖父は俺が隔離されてた日は一日中俺の為に祈っていたらしい。
○○について詳しい事は教えてもらえなかった。
ただ後日、風の噂でAが行方不明になったことを知った。
俺が体験したのはこんな感じ。
その後、十数年が経ったが別に霊障があったとかはないのだが、未だにAのことを考えると真っ黒な空洞の目を思い出して恐怖が沸き起こる。
表現し難いのだが、あの日山で起こったことは生と死の境界を見たような、単に恐ろしいものを見たというだけでなく、
精神の根源から恐怖するような感じだった。
後日談も何も無く、これはただそれだけの話。
落ちもありきたりだし、読みにくかったかもしれん。
様々な心霊スポットに行って来たが何も起きたことの無い俺の唯一の不思議な体験。
なんらかの理由はつけることができるだろうと心の中で思いつつも、あえて論理的な思考を放棄して、不思議なままにしている。
まあ大丈夫とは思うが、これを見てもし何か災いが起きたら申し訳ない。
もし似たような体験をしたことあるやつがいたら教えてほしい。