残骸を谷に埋めて証拠隠滅

カテゴリー「怨念・呪い」

以前勤めていた会社での話。

俺は卒業してA建設(仮名)に入社。
会社自体は中堅どころのゼネコンで、勤務態勢や社員の福利厚生は整っていた。
全国に支社や営業所があり、俺はあちこちの支店を渡り歩き、最後にY支店に赴任した。

何年か首都近郊でマンション建設に携わり、一身上の都合で退職する直前、その会社最後の現場での出来事。
最後の現場とはG県のゴルフ場造成工事。
工事自体は土木部の領分。
俺は建築部だったのだが、クラブハウス建設に応援部隊として2ヶ月ほど出向させられた。
これ自体は別に問題は無かった。
建築の所長は顔見知りで、何かと気を遣ってくれ、完成まで楽しく仕事ができた。

問題は土木の方。
最高責任者をB所長と仮称しておく。
彼は次期土木部長候補と噂されていた人物で、とにかく自己中な性格。
自分以外の人間はクズでバカで使えないと公言しており、自身の出世や楽しみのためならば他人がどうなろうと構わないと考えているような、黒い噂の絶えない奴だった。

なぜ管理職になれたのか不思議だったが、理由があった。
部下の社員が何時間残業しても全部カット。
土日祝祭日は書類の上だけ休日にし、本人は出勤せずに上司とゴルフ。
部下の社員はサービス出勤させていた。
そのため書類の上では管理能力抜群となり、管理職では抜群の成績。

こんな上司の下ではやる気が出るわけない・・・。
B所長の下に配属後退職していった社員はかなりの数に登る。
書類の上では依頼退職だが、実際は体調不良になったり精神を患ったりした者が大半だという噂。

さて、この現場には自分の同期入社のC(土木部)がいた。
普通、土木の現場は、建築とは逆に、工期末に近づくと作業自体は暇になる筈なのだが、この現場は未だに忙しい、なんか変だ、とCに話を聞くと、いやはや出るわ出るわ。

発端は、コース造成中に古墳らしき遺跡が出土した事だ。
これが外部に漏れたら文化財調査で工事が中断してしまう。
ゴルフ場のオープン日は動かせない。
工事遅延は非常に困る、自分の経歴にも傷が付くと考えたB所長は出土の事実を隠蔽、関係者に口止めし、遺跡を下請業者に破壊させ、残骸を谷に埋めて証拠隠滅したそうだ。

ところが、それからというもの事故や天候不順で工期が遅れに遅れてしまった。
以下その内容。

・事前調査で全く問題無かった場所から、地下水が噴出。
・その処理をしていた業者の重機が横転。負傷者が出た。
・長雨が続き、造成が遅延。
・クラブハウス予定地に岩盤があり、掘削が著しく困難に。事前の地質調査では発見できなかった。
・盛り土の上に張った芝生が、何カ所も枯れて何度も張り直し。
・土木の社員5人のうち、身内の不幸が続き3人が退職または休職。
・新たに配属された社員が出勤途中に事故×2回。
・直接遺跡を破壊した下請業者が倒産。
・台風倒木により現場事務所が破損。

等々。

当然B所長は責任をすべて部下や下請けに押し付け、自分は知らん顔。
でも、まあ何とか工期には間に合い、俺たち建築部は引き上げた。
退職前にCに頼んで遺跡が出土した場所の詳細なデータを貰った。
もう退職する人間なら問題は無かろうとCは膨大なデータを渡してくれた。

俺としては考古学に興味があり、単なる記念にと考えていただけなのだが、後日B所長が全てのデータを処分したため、これが残存する唯一の資料となった。
その直後、依頼退職をした。
これは全く持って俺の一方的な都合なのだが、会社の上役はそう捉えなかったようだ。

退職して1ヶ月ほど後、A建設の人事部から電話が入った。
話を聞くと、どうやらB所長に関しての疑惑が浮上してきたそうだ。

「彼の部下になるとかなりの確率で退職していく。土木部の人間だけではなく、今回は部署の違う建築部の人間まで退職した(俺の事)。どう考えてもおかしい。君が退職した本当の理由を聞かせてほしい。」

本当の理由も何も、B所長とかかわる3ヶ月以上前から退職は決まっていたので、私の場合は関係無いでしょう、と力説したのだが、相手は納得しない。
そこで、あの現場に限っては、古墳を壊した祟りではないか?だから工事が遅延して大変な事になったのでは?と冗談半分に説明。

「古墳?なんですか、それ?初めて聞きました。」

問われるままに事実を細かく説明。
ついでに資料もコピーして送付した。
後日、Cから連絡があった。
以下その内容。

・B所長に関連した退職者を人事部が追跡調査。大半が精神疾患が原因と判明。人事部長が社長に報告。
・取締役会にてB所長の素行調査を決定。
・下請業者に賄賂を要求したり、資材を横流ししたりと悪行が判明。
・遺跡破壊の件で文化庁から問い合わせが入り、現場責任者だったB所長が取締役会に呼び出された。どうやら下請業者から報告があったらしい。
・知らぬ存ぜぬを通すも、俺が送った資料が決め手となり(遺跡中央に立つB所長の写真もあった)、社会的道義性を問われ、処遇決定まで自宅待機。

彼は「処分したはずの資料が何故残っているのか?」とあちこちに問い合わせ、自ら墓穴を掘ったそうだ。
建設会社には現場で遺跡が出土しても保存義務は無いのだが、A建設は文化庁(当時)が発注する工事も受注しており、文化財保護には神経質になっていた。

おまけに同庁と文化財保護に関する取り決めを締結していたため、事実を知った社長が激怒。
会社の名誉を著しく棄損したとしてB所長は懲戒免職となった。

B所長は懲戒免職直前に辞表を出すも受理されず退職金は出なかった。
施主からは、何の報告も無く文化財を破壊したとして叱責されたが、結局うやむやに。

その後、文化庁が調査に入り、俺が送った詳細な資料を入手。
会社としても知らずに撤去したのではなく、復元は不可能とはいえ、後日の調査に支障をきたさないよう詳細な資料を作りました、と釈明。
そのおかげかどうか、A建設に対する問責はナシ。

B所長の資料廃棄前に、彼の手の届かない俺に全てのデータを託したとされたCは、先見の明があったと一方的に誤解され、一躍英雄扱い。
社長表彰を貰った。
いずれ俺にも金一封くらい届くだろうとのこと。
事実、その直後、退職金特別加算額との名目で振り込まれた。

懲戒免職となったB所長は、下請業者にも相手にされず(そりゃそうだろう)、結局実家に帰ったらしい。
以後は消息不明。

以上。
古墳の祟りなのか、身から出た錆なのか、それとも因果応報なのか、復讐譚なのか、よく解らない話でした。

実は、まだ続きがある。
俺の退職から15年程経って、A建設は倒産した。
バブルが弾けて資金調達が滞り、新規事業も失敗続きだったそうだ。
事実を知ってる社員は、これも古墳の祟りだと噂していたらしい。

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