不思議な黒猫

カテゴリー「怨念・呪い」

30年近く前・・・思えば俺が物心ついた時から我が家には黒猫がいた。
すでに成猫で、目の色はゴールドというか、どこにでもいる黒猫。
メスで、尻尾が長く、歩くときはそれを立てて優雅に振っていた。
俺が小学校から戻るといつも玄関先にいる。
「おかえり」のつもり(?)なのか、ニャ~と短く鳴いて俺の顔を見上げてた。

黒猫は賢くって人なつっこいとよく言われるけど、例に違わず人によく慣れていた。
それと、猫は空気が読めるとも言うけど、人との距離の取り方も絶妙だった気がする。
例えば7,8歳頃の記憶だけど、友達とケンカして機嫌を悪くして帰宅すると近寄ってこない。
でもアニメか何か見て機嫌が直ると、いつの間にか俺の隣で寝ている。
頭を撫でてやると、俺の膝の上に乗りグルグル喉を鳴らす。

「くーたん・・・」と名前を呼んで抱き上げると、俺の耳元をペロペロ舐める。
グルグル喉を鳴らして、小さな鼻息、ざらざらの舌の感触、リアルに今でもはっきり覚えている。
親から叱られてベソかいてると、微妙な距離をとってそばで心配そうにしてるとか、覚えているシーンも数年間に渡っていくつもある。

2つ下の妹も黒猫をかわいがった。
何かの包装用の赤いリボンで首輪を作り、黒猫につけてあげていた。
俺「ゆったりめにつけてあげないと、くーたんが苦しいよ」

妹「うん、わかってる」

この会話もリアルに覚えている。

小5の時に親父の仕事の都合で引っ越した。
ところが、この時期を境に俺の黒猫の記憶が途絶えている。

引っ越しや転校、新しい友人と知り合い遊び、色々あったから印象が薄くなったのか、引っ越し先がペット禁止で親が知り合いにでもあげたのか・・・。
中学、高校、大学、黒猫のことはその後も時々思い出したけど、勝手にそう考え、一人で納得していた。

今年の正月。
俺も所帯を持って、妹も嫁ぎ、実家にそれぞれ家族を連れて集まる。
実家に到着すると、妹一家もほぼ同時にやってきた。
と、ふと隣の家の庭に目をやると、赤い首輪をつけた黒猫がいた。

「くーたん・・・」ふと口をついて出た。
妹もそっちを見て、「くーたん、私も覚えてる。大人しくてキレイないい猫だったよね」と懐かしそうに言った。

年始の挨拶をしてテーブルを囲む一族。
おせちとお酒で話しも盛り上がる。
俺はふとさっきの黒猫を思い出して、親父とお袋に尋ねた。

「そう言えば、◯◯町(黒猫の記憶がある時期に住んでたところ)から引っ越す時、くーたんどうしたんだっけ?誰かにあげたんだっけ?一緒に引っ越したんだっけ?」

不思議そうに顔を見合わせる両親。
親父が、「・・・なんだ、そのくーたんって?」。
俺が、「はいはい、とぼけなくていいから!黒猫のくーたんだよ。・・・あ、ひょっとして捨てた?もしそうだとしても。今更気にしないからどうしたか教えてくれよ」と言うと、妹も話題に乗っかってきた。

「そうそう、私も気になるし!くーたんのその後!」

そしたら親父が意外なことを言い出した。
マジメな顔で「オレが猫嫌いなの知らないのか?オレは結婚してから猫はもちろん、何の動物も飼ったことはないぞ」

今度は俺と妹が顔を見合わせる番だった。

「絶対、そんなことない!抱いた感触、喉を鳴らす音、全部覚えてるし!」
「そうそう!いつもリビングの床で寝てたじゃない!」

俺と妹が口々に言うと、親父はからかわれてると思ったのか、ちょっとムッとしたような顔をした。
お袋が見かねて呆れたように口を挟んだ。

「◯◯町のアパートはペット禁止だったよ。飼えるわけないでしょ」

絶句した。
両親の顔を見るととてもウソをついているようには思えなかった。
妹も混乱しているようだったが、何かを思いついたように「兄ちゃん、アルバム!昔のアルバム!」。
そうだ、親父は昔からカメラが趣味で、俺と妹の成長記録の写真は山ほど実家にある。
1枚でも写っていれば、勘違いしているのは両親の方とわかる。

屋外の写真には目もくれず、部屋の中で撮った写真を片っ端からチェックした。
それでも100枚以上はあったが、全部見終わって背筋が寒くなった。
本当にくーたんの姿は、1枚の写真にも写っていなかった。
妹も顔色が変わっていたが、それでも「自分は小さかったから、何か勘違いしたんだろう」と、自分に言い聞かせているようだった。

だが俺の方は、引っ越し当時10歳を越えていた。
他の記憶は全部ほぼ正確なのに、なぜ黒猫だけ混乱(?)しているのか?
(しかも小さい子供とは言え、妹という証言者もいる)
絶対ぬいぐるみとかじゃない、重み、感触、音、匂いまでリアルに覚えている。
毎日玄関先まで迎えにきて、遊んでくれた、あの黒猫は何だったんだろう?

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