ある病院に、かわいくて明るいが、病弱でずっと入院してた少女がいた。
最後の思い出に、小学校の運動会に出てみたい、かけっこしてみたい、と、涙ながらに母親に訴えた。
不憫に思った母親に学校に願い出て、どうにか出場できるようにしてもらった。
運動会当日、少女はクラスのみんなと、かけっこに出場していた。
事情を知っていた保護者達とクラスメイトが見守る中で、走り出した少女は、どんどん前列から遅れていき、あっというまに最後尾になった。
とっくに他の出場者達はゴールまで走り終え、残るは少女だけだった。
汗を流し、息を荒がせながら、最後は徒歩になり、それでも少女はゴールまでたどり着いた。
会場は満場の拍手で少女を迎え、感動し、ゴールの瞬間を写真に撮る人もいた。
少女は満面の笑顔で母親に抱きついた。
しかし、その後、病室に帰った少女の容態は急変し、すぐに手術が施されたが、そのまま、少女は亡くなってしまった。
母親は運動会に出場させたのを悔やんだが、そのうち、せめてみんなと一緒に運動会に出れただから、あの子も幸せだったろうと思うようになった。
そして、せめてもの思い出にと、あの時ゴールの瞬間を撮った参加者を探して、どうか写真を焼き増ししてもらうように頼んだ。
だが、予想に反してその人は苦々しい表情で断った。
ただ、見ないほうがいい、とだけしか言わなかった。
納得できない母親はどうにか食い下がり、どうにか見せるだけ見せてくれるように言った。
そうしてようやく見せてもらった写真・・・。
ゴールにたどり着いた瞬間の娘の姿と、その会場にいた保護者や児童達が映っていた。
そしてその写真に写っていた会場の全ての人間が、娘の方へ、目を閉じ頭を下げ、合掌していた。