知り合いの話。
彼のお祖父さんによると、ある山奥に老人ばかり集まる場所があるのだという。
最寄りの駐車場より小一時間ほど歩いた斜面にあるその場所は、林の中にぽっかりと開いた小さな広場になっている。
中心に松の切り株が八つばかりあるだけで、他に見るものは何もない。
なのにいつ訪れてみても幾名かの老人がそこにいる。
老人たちの間で囁かれている噂がある。
切り株を一つ選んで腰掛けると、病が治り心身の調子が良くなるのだと。
どんな難病にでも効能があると言われ、それに縋る者も多いのだと。
ただ、切り株が効果を顕すのは、人生に置いて一度だけ。
それに加えて、切り株の中には外れが一つだけあり、それに座ると逆に具合が悪くなって死ぬとも言われている。
人によって切り株の当たり外れが違うため、他人の選択は参考にならない。
お祖父さんはこれまでに二度、そこを訪れているという。
持病に悩まされていた所為だが、結局二度とも座れなかった。
「何ていうか、一つを選ぶ勇気が出なくて」
そう言って苦笑していたそうだ。