もう十年くらい前になる。
僕が住んでる市の小学校で「逆てけてけ」というローカル都市伝説が流行ったことがあります。
それは、みんなが知ってる”テケテケ”とは全く逆の性質で、市内のどこかの踏み切りに夜中雨の降ってる時にだけ現れ、遭遇すると何かがある・・・というものでした。
当時その市内の小学校で非常勤教諭をしてた僕は、担当していた子供達からその話を聞きました。
ずいぶん変わった怪談話もあったものだと、その時は聞き流していました。
ある日の夜です。
隣の市で担当学科の講習会があり、雨が降っていたため、いつもは通らない道を歩いて帰っていました。
教材や荷物が重く、リュックサックを猫背気味に背負い傘を深くさしていました。
そこは住宅地だから入り組んでて人通りもなくて、灯りも少ない、とても視界が良いとは言えない道でした。
トボトボと歩いていると、前から女性の足が歩いてきてるのが見えました。
大の男ですが小心者の僕は、やっと通行人に遭遇して安心しました。
しかし、足が近づいて来るに連れ、何か違和感を感じます。
結構な土砂降りにも関わらず、その足は長靴どころか、靴などを何も履いていなかったのです。
裸足の女性が歩いてるとなると、何か暴行でもされたのか?と思い、僕は声を掛けるために傘を上げました。
するとその足は見えなくなってしまいました。
見間違いかとも?思ったのですが、確かにその足は右、左と交互に動き、きちんと歩いているように見えました。
少し不安な心持ちのまま角を曲がり、踏み切りを渡り、川を跨ぐ大きな橋まで黙々と歩きました。
途中どうしても怖くなってしまいヘッドホンを取り出し音楽を聴きました。
確か外国の女性歌手の楽曲をリミックスしたものだったと思います。
エフェクトが多様され明るい音調だったので、先ほどの件は気にはなっていたものの、それほど不安は感じていませんでした。
橋の中頃に差し掛かると、右手後方から女性のものと思われる甲高い咳が聞こえました。
大荷物だし通行の邪魔になったのかと避けましたが、暫くしても誰も横切らないので振り返りました。
しかし、女性はおろか誰もいません。
見間違いに聞き間違いか?と訝しんでいるところに、今度はヘッドホンの右側から含み笑いが聞こえてきました。
こんな時に怖いエフェクトだなぁ・・・と半ば無理矢理に思い込んでいると、音楽はブツッと音を立てて切れました。
そして両耳からとても明瞭な女性の声で「私のこと知ってる?」と・・・。
幾ら何でも恐ろしくなって、ヘッドホンを外し傘を捨て、大声を上げながら全力疾走しました。
不振だったようで通りすがりの警察官に声をかけられ、そのまま交番で保護してもらいました。
翌朝、学校の図書室で”テケテケ”という物について調べました。
テケテケは踏み切りで電車に轢かれ足を切断された女の子が、人々に語り継がれるうちに妖怪化してしまい、都市伝説がなくならない限り成仏出来ない妖怪で、姿は足のない髪を振り乱した女、テケテケとしか喋れない・・・とのことでした。
全く逆の性質を持つ逆てけてけというあのローカル都市伝説に、僕は遭遇したのかもしれません。