その光の先に死んだ人が・・・

カテゴリー「都市伝説」

とある盆地の町で聞いた話。

周囲を山に囲まれたその町は、朝霧で有名だった。
気温が下がると、放射冷却によって冷やされた空気が霧となる。
盆地では山から流れ込む冷気が霧を濃くし、さらに空気の循環が少ないため、霧は朝日が完全に昇るまで長く居座ることになる。

周囲の山から見下ろせば、町が霧にすっぽりと覆われた、幻想的な景色を見ることができる。
町は白いベールに隠されているようでもあり、乳白色の湖に沈んでいるようでもあった。

この町の中心には、一本の川が流れていた。
夏には蛍の群舞が見られる美しい川だった。

そしてこの川には、不思議な噂があった。

川の周辺では、川霧も手伝ってより濃い霧が漂う。
その霧の中に、いるはずのない蛍がスゥっと飛ぶのが見えることがあるという。
朝霧が発生するのは気温が下がってからなので、蛍の成虫が飛び交う季節とは異なっている。
なので、霧の中で見つける蛍は、いわゆる蛍ではない。

そんな蛍を追いかけていくと、もう亡くなってしまった会いたい人に、会えるのだという。

ある人は、蛍を追いかけた先に、背中を向けて立つ父親を見た。
ある人は、背後に友人の咳払いを聞いた。
ある人は、隣に立ってそっと手を握ってくれる妻の温かさを感じたという。

「でもね、誰もがはっきりと会えたわけではないんですよ。実は私もね、霧の中に蛍のような光を見たことはありますよ。でも、話に聞くように死んだ人に会えるなんてことはなかった。蛍に見えたのも、きっと朝日の反射かなんかでしょう。正直、噂というより迷信ですよ、迷信」

私にそう話してくれた男性を、次の朝霧深い河原で見かけた。
人待ち顔でウロウロと、乳白色の世界を歩き回っていた。

人は誰でも、なくしたものを求めずにはいられないのだろう。

ブログランキング参加中!

鵺速では、以下のブログランキングに参加しています。

当サイトを気に入って頂けたり、体験談を読んでビビった時にポチってもらえるとサイト更新の励みになります!