友人の話。
夕暮れの里道を一人下っていた時のこと。
後ろの山方から「おーい」「おーい」と口々に呼ぶ、大勢の人声がした。
振り返ると山から里道にかけて、何か黒い物がズルズルと流れ出している。
しばらく自分が見ている物が何かよくわからなかった。
あまりに数が多かったので・・・。
黒くグズグズの、爛れたように見える人型の群れ。
足が使えないのか、どの影も腕で膝行ってくる。
影の幾つかが時折手を振り上げては「おーい」と呼び掛けてきた。
考えるより先に足が動いていた。
脱兎のごとく逃げ出す。
呼ぶ声はしつこく付いてきたが、決して振り返らなかった。
家に辿り着いて落ち着くと、悪い幻でも見たのかという気持ちになった。
夕食時に話してみたが、祖父が「クロハイか。捕まらなくて良かったの」とポツリ呟いたのみで、それ以上は話題に上らなかった。