これは松濤に住む叔父さんから聞いた話になります。
叔父さんは若いころかなりの会社人間で、今でこそ役員ですがヒラのころはかなり無茶な量の仕事をこなしていて、長時間残業当たり前、帰宅はいつも午前様でした。
大量の仕事を抱えて奮闘していた叔父に、急に山陰支店にヘルプに行ってくれという辞令が下りたときのことです。
叔父さんはその日も残業を終わらせた後、帰宅もせずにそのまま社用車で直接山陰支店へ向かうことにしました。
当時はカーナビなんかない時代ですので、車のダッシュボードに積んであるロードマップをめくりながら記憶をたどって車を走らせます。
案の定叔父さんは途中で道に迷ってしまい、悪いことに雨まで降ってきてしまいました。
慣れない道ですから当然ですよね。
山間部を走っていましたもので、霧も出てきてしまい視界もかなり悪いなかでの運転と
なりますなかで緊張を維持し続けなければならず、睡眠不足と疲労もありました。
ついうとうとと居眠り運転をしかけてしまったとき、急にライトの先に若い女性の姿が
浮かび上がります。
あっ危ない!
叔父さんはとっさにブレーキをかけ、その判断より車は安全に停止することができました。
女性が無事だったかどうか車を降りて確かめようと叔父さんが車をおりたところ、何と車の先は深い崖でした。
もちろん先ほどの女性の姿は見えません。
人と衝突した衝撃もありませんでしたし、その形跡もありません。
何の痕跡もない車体と、そのわずか先に広がる崖を見ながら叔父さんはゾッとしたそう。
もし・・・さっきの女性がいなかったらブレーキは踏まなかった、ということは死んでいた・・・そう思いいたると叔父は、先ほどの幻の女性に命を救われたことに気がついたのです。
そのとき車内に女性の忌々しげな声が響きました。
「死ねばよかったのに」