彼のお爺さんが猟師をしていた頃、山にヒトクチと呼ばれる化け物が出たという。
獰猛な肉食獣で、獲物を一口に呑み込んでしまうことから、この呼び名がついたそうだ。
凶暴な性質の上に知恵もまわり、罠には絶対に掛からなかった。
村人から犠牲者が出るに至り、ついにヒトクチを退治することになった。
大規模な山狩りをおこない、とうとうヒトクチは仕留められた。
死体を改めてみると、異形の姿をした山犬のような獣だったらしい。
黒い体毛は短くて、身体の大きさは牡鹿ほどもあり、異様に頭部が大きい。
恐るべきことに、体長の半分近くを顎が占めていたという。
村には死体を入れずその場で焼いて埋め、塩を撒いたのだそうだ。
人間は深い山の中まで、理由もなく踏み入っちゃいけない。
一体全体、どんな怖いものが出てくるか分からないから。
お爺さんは彼にこう言っていたそうだ。