その道を通るのをやめた理由

カテゴリー「都市伝説」

数人で集まった酒の席で、ふと怪談の話題になった。

その中の一人が、「心霊かはわからないんだけどさ」と前置きして話してくれた。

仕事の帰り、彼は駅から下りてアパートまでの道のりを、運動不足解消のためいつも歩くという。

彼の自宅の近くには市でも有数の自然公園があり、その広大な敷地に面する道路は長い直線で、曲がりくねることなく50m先まで見通せるらしい。

街灯はぽつりぽつりとしかなく、民家も無いため明かりはほぼない。さらに敷地からはみ出した森の一部が月明かりを遮るためいっそう闇は濃い。

そんな道をとぼりとぼりと歩いていると、数十メートルほど先に、こちらに向かって歩く人影が見えた。

明かりの無い暗い道だし、さらに彼から距離が離れているため影の輪郭しかわからないが、直感で子供だと思ったという。

異様に背丈が小さいのだ。

五歳児ほどかとあたりをつけたところで、声をかけた方がいいのか迷ったという。

こんな時間にあんな小さな子供が出歩くのは尋常ではない。

しかし声をかけたところで自分が不審者だと間違われたら大事だ。

そう悶々としているうちに人影との距離は近づく。

ある程度まで近づいたところで、彼はくるりと踵を返し、来た道を引き返したという。

私がどうしてだと問うと、彼は苦々しい顔でこう答えた。

「だってさ、それ子供じゃなくって、四つんばいで歩く女だったんだよ」

しかも俺のことを真っ直ぐ見て、満面の笑みだった。

真っ暗な道でも、その表情だけは何故からんらんとはっきり見えたという。

殆ど駆けるようにその道を抜け、駅まで戻ったところで、彼はタクシーを呼んで帰宅したという。

以降、彼はその道を通るのをやめた。

「家まで遠回りすることになるから、かえって運動不足解消になるからいいけどね」

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