人肉館に行かないか?(後編)

カテゴリー「都市伝説」

※このお話には「なぁ、人肉館に行かないか?(前編)」があります。

私は暫く考え、この部屋が何を目的として使われていたのか分かった。

恐らく食肉の加工でもしていたのだろう。

柵で作られた囲いに牛や豚を入れ育て、真ん中のスペースで解体していたに違いない。
そしてさばかれた肉の一部が料理として出されていた。
噂があっていれば、きっと人もここで解体されていたのだろう。。。

そう考えると、不気味さが一層強くなった。
そんなことを考えながら下を見ていると、明かりがチラホラと動いているのが見えた。
下の階を見回っている友人だ。

友人は大型機械の付近を歩いている。
しかし暫く見ていると機械の影に入ってしまい、見え無くなってしまった。
その後、私は今居る部屋を一通り見て周り、元来た階段を降りて友人の帰りを廊下で待った。
どのぐらいの時間が経ったのだろうか、友人はまだ戻って来ない。
いくら広い部屋でも、そろそろ戻ってきても良い時間である。
友人の身に何か良からぬことが起きたのだろうか。

私は懐中電灯を再び構え友人が入って行ったドアを開けた。
先ほど上から見ていたので大体どのような構造になっているのかは分かるが、実際に床に足をつけて見るととても広い。
入ってきたドアから通路が奥まで続き、その行き先に上から見た円形のスペースがあるはずだ。
その途中、通路を挟むように大型の機械が置かれている。
大きな声を出し友人を呼べば直ぐに見つかるかもしれないが、周りは静まり返っており、何故か声をあげることができなかった。
仕方なく周りを注意しながら足を進める。

もしかしたら友人が何処かの影から私を脅かしに飛び出て来るかもしれない。
歩く度に足元にある藁が擦れて、ザザッザザッと音がなる。
入口から延びている通路を少し歩いた。
もうすぐ二階から見えた円形のスペースが見えてくるはずだ。
思惑通り少し歩くと円形のスペースが見えてきた。
そして二階からはよく分からなかった、四角い物体も徐々にその姿を現した。
歩く度に鮮明になっていく四角い物体。

それの正体に気がつくまでさほど時間はかからなかった。
四角い物体は巨大な冷蔵庫だった。

家庭用の冷蔵庫ではなく、業務用の大きい冷蔵庫がポツンと置いてある。
何故こんな場所に??

余りに不自然である。

このような場所では不自然に感じるものほど恐怖を覚えるものは無い。
私は冷蔵庫に近づいてみた。
冷蔵庫は錆だらけで、とても動きそうだとは思えない。
取っ手に手を掛け手前に引いてみる。

ガタッ。
ガタッ。

鍵がかかっているのだろうか。
扉は開かない。
暫く押したり引いたりを繰り返してみたが扉が開くことはなかった。
私は友人を再び探そうと、先ほど二階で友人を見失った大型機械の方へ向かう為、冷蔵庫へ背を向け数本歩いた。

その刹那。

ブォォォォォン!!!!!!

突然の轟音に体が硬直する。
何処から聞こえてきているのかは直ぐに察しがついた。
真後ろにある、冷蔵庫だ。

もう壊れているだろうと思い込んでいた冷蔵庫が凄まじいファンの音を響かせながら動き始めたのだ。
私は意を決し振り向いた。
足は余りの恐怖で震えが止まらない。
もう何がなんだか分からなくなってきた。
何故急に冷蔵庫が動き始めるんだ。。

数十秒、轟音を発する冷蔵庫をただ呆然と眺めていると、やがて音は止んだ。

そして、、、ギィィィ。
冷蔵庫のドアが開いた。
重く、鈍い音が部屋に響き渡る。

ドアはこれでもかというほど遅く、遅くその奥に隠されていた物をさらけ出していく。

見慣れた目。
見慣れた鼻。
見慣れた口。
見慣れた顔だ。

友人の首がそこにはあった。
友人とは中学生からの付き合いである。

中学生時代は殆ど毎日登下校を共にし、沢山遊んだ。
高校、大学はそれぞれ別の学校へ進学し、その後友人は地元企業へ就職。
私は東京の企業に就職した。

お互い違う県に住んでいても、帰郷したときには必ず一緒に酒を飲みに行く。
何でも話し合える大切な友人だ。

そんな友人の首が開かれた扉の奥に置いてある。
両目から血が流れ、黒目は左右別の方向を向いている。
そして口からは蛇のように長い舌が飛び出ている。
恐らく、切り取られて口にくわえさせられているのだろう。
私は失禁した。

そして、震えが絶頂に達した足は私の体重を支える力を失い、私はその場に座り込んだ。
ただ、ただ、悲しみに暮れ、呆然とすることしかできなかった。

そして、、、、カシャー、カシャー。

どこからともなく、金属の擦れる音が聞こえて来る。

どうやらその音は冷蔵庫の奥、月明かりが届かない闇の中から聞こえてくる。
私は懐中電灯をその音に向けた。
光の中から徐々に何かが現れてくる。

ゆっくり、ゆっくりと、、、、。
それは、とてつもなく長い包丁を両手に持ち、血だらけのエプロンと手袋を着けた男と、真っ赤な血に染まった友人の服を着た女だった。
女の手には人の腕が握られている。

男が両手に持っているのは牛の首を斬首するための包丁なのだろうか。
刃は錆びきっており、血がこびりついている。
男は笑顔で、その両手に持った包丁をしきりに擦り合わせている。
女が持っている腕には友人がしていた腕時計が巻かれている。
女はその腕時計を狂ったように外そうとしている。
私はその腕時計が何を意味しているのか考えたくもなかった。

彼等は私に、友人を失ったことに対して悲しんでいる時間を与えてはくれなかった。
男が両手の包丁を振り上げながらこちらに向かって走って来る。

殺される。

私は立ち上がり、全力疾走で今来た道を走った。
一度も振り返ることをせず、ただ、ただ、出口に向かって走った。

後ろからはガシャンガシャンと物が壊される音と、叫び声が聞こえてくる。
走りながら私が聞いた言葉は、「いただきます」という言葉だ。
男はその他にも意味不明なことを叫んでいる。

出口から飛び出し、車に飛び込んだ。
震える手を押さえながらイグニッションを回す。
直ぐにエンジンが掛かり、私は車を走らせた。
山の麓にはどこかで転回しないと戻れない。

私は山を登った。

曲がりくねった山を登っていくと、やがて霧が辺りを覆ってきた。
霧のせいで殆ど視界はゼロに近い。
やもえず速度を落とし転回できるスペースが無いか辺りを良く見回す。
見回しながら車を進めていくと、この道の終了を意味する、鉄製の丈夫な門が現れた。
門には鎖が何重にも巻かれており、例え車で突っ込もうとも開くことはないだろう。
それを見て私は車を止めた。
そして友人のことを考え泣いた。
泣きながら窓の外を見る。
そして私は携帯電話を取り出した。

TO:お母さん

件名:ごめんね。
本文:
お母さんごめん。
やっぱり東京に戻るよ。
ちょっとやぼ用が出来ちゃってさ。
お母さんの作ったご飯、久しぶりに食べたかったけど残念だな。
また来るからね。
本当にごめん。
送信を終え、私は携帯電話を閉じる。

そして・・・。

先程から私の横に立っていた男は、私が携帯電話を閉じるのを見て、車の窓ガラスを叩き割った。

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