“蠱毒”

カテゴリー「怨念・呪い」

友人の姉妹の引っ越しが決まった後、不動産の仕事をしている知り合いと話す機会があった。
彼女(不動産)は私と友人(妹)との共通の知り合いでもある。
些か気になっていたことがあったので、丁度聞きたいこともあった。

私:「姉妹の入ってたあのマンションなんだけどさ、何か内装がおかしくないか?普通使わないような意匠とか、本来使われない家具が使われたりしてたけど。」

彼女はどうやらそのことを知らなかったらしい。
興味を持ってくれたのか、これについて少し調べてみると言った。

しばらくして連絡があった。

彼女(不動産):「あそこのマンション、確かに変な改装ばかりしているみたいだよ。特に八階、九階なんだけどね。すぐに開けられないといけないドアとかが、そうでない仕様になっているとか、酷いのになると勝手に間仕切り増やしてたり、壁に穴開けたりしてたみたい。うん、当然契約違反になるから追加で修繕費出して貰ったみたいなんだけど」

彼女(不動産):「風水的にもおかしなことしていたみたい。いや、今の住居における風水ってのは半分験担ぎみたいなところがあるんだけど、あそこのは何かそういうのと違うようなのよ。先生って綽名で呼ばれてる人がいるんだけど、その人が言ってたの。壁や間取り、みると、何ていうか一つの癖が見受けられるっていうのね」

どんな癖だって?

彼女(不動産):「癖というか、悪意みたいなモノを感じるんだって。家相というか家の気を歪めるとか、鬼門の位置を変えるようなって・・・詳しい話されてもこっちはわからないからね、よく理解できなかったけど」

彼女(不動産)「あと変なことも言っていたなぁ。孤独を作り出そうとしている訳でもないだろうに、とか何とか。家の間取りで友達が出来なかったりすることもないでしょうにね」

私:「その人、確かに“コドク”って言ったのかい?」

彼女(不動産):「よく覚えていないけど、多分そんな言葉を使ってたと思う。場違いだなぁと感じたから、何となく印象に残ってるよ」

私はその先生と呼ばれる人を知らない。
だからどんな知識を彼(彼女?)が持っているのかも知らないが、ひょっとしたら先生は全然違う言葉を述べたのではないか、そう思えて仕方がない。

先生は“蠱毒”と言ったのではなかろうか。

確か大昔から伝わる呪法に、そう呼ばれたものがあった。
多くの毒を持つ虫を壺の中で共食いさせると、最後に残るのは最強の毒を持つ個体となる。
その生き残った虫を使役するのが、蠱毒という呪術だ。

しかし、ここで何故その名が出てくるのか。

ここから先は、すべて私の妄想です。
そう思っていただきたいと思います。

・・・元々、祟りなどに由来のある場所に建てられたマンションがあった。
そこの部屋内に少しずつ手を加えた者がいる。
特に上階の部屋に。
この地に彷徨う何かの流れを歪め、押し込めるように。

そういえば、彼女に部屋には、おかしなモノが下から上に抜ける、霊道みたいなものがあると以前に聞いた。
アレは他の部屋にもあったのではないだろうか。
それがある程度まで濃縮されたことで、これまで耳にしたオカルト的な出来事を起こしていたのではないか?

これは別の話で聞いたことだが、霊というモノは合体することもあるらしい。
最初は生前の姿を取るのだが、融合が進むと、段々手や足、顔などのパーツが増えていき、
また目や口なども歪んで人に見えなくなるのだと。

寝室に現れたという、足だけで出来たボール塊の話を思い出す。
アレは霊というかそのようなモノが、溶け合っていく最中の姿ではないのか。

彼女の姉が部屋から見下ろした駐車場にいた、黒い影。
見られて上がってきたそれを、何も知らない彼女が招き入れた。
この影は非常口標識みたいな形を取り、部屋から出て行ったらしいが、その後に他の所帯での怪事は治まっている。
アレは何かのトリガーだったというか、呪法の一つではなかったのか。
彼女の部屋で、何かを濃縮するための引き金。

やがてその何かは、彼女一人にターゲットを絞る。
一度人の形を崩したモノが、また段々と、人の形を作り始める。

そして。

生きている人間に危害を与える力を持った時点で、最強の“毒”が完成した。

これを仕組んだ何者かは、出来上がった“毒”を回収し、何処かへ持ち去った。
だからマンションでの怪異は、もう起こらなくなった・・・

以上、全然裏付けも何もない、まったくの妄想でした。
実際、その先生が本当に蠱毒と言ったのかどうかも定かではありませんし。
調べる気もありませんし。

件のマンション、本当にパッタリと何も起こらなくなったそうです。
立地条件は元々便利な場所なので、現在は空き部屋もなく、非常に優良物件となっているのだとか。

私に直接の被害があった訳ではありませんが、非常に印象深い体験でした。
正直あまり関わりたくないような体験でしたが(汗)。

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