確実に近づいてきている

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

昔mixiで内輪向けに書いたやつなのでヘタな稲川語り風になってますが、せっかくなので。

もう10年も前になりますかね。
私が九州に住んでたころの話です。
Kさんという友人がいまして、彼とは蛍がいるっちゃ山に行ったり、ロケット打ち上げっちゃ見に行ったりと、何の用があるでもなく、よく車でそこいらを走り回ったりしたものです。

あるうす曇りの蒸し暑い夏の夕暮れ。
その日も、何の用だったかK県のほうへ車を走らせた帰り道。
そういえば、と突然Kが切り出した。

K:「Y君、この辺あるらしいよ」

私:「あるって、なにが?」

K:「病院。廃病院だよY君」

当時から怪談話が好きだったし、心霊スポットなんてのもいいね!なんて話をしていたもんですから、どっかで仕入れきた情報なんでしょうね。
それがこの、とある温泉町を抜けた街道沿いにあるとのことでした。

「よしいこう!」

てんで鼻息荒く車を走らせると、案内されたのは国道沿いのラブホテル。

私:「おい・・・冗談キツイよ」

K:「違うから」

どうやらそのラブホテルの駐車場の先に、その病院への道があるらしい、とのこと。
男二人でラブホテルの駐車場に入るのはなんか嫌だなあと思いながらもご入場。
確かに道があるんだ。

ラブホの裏手が林になってて、そこに薄暗ーくて鬱蒼としてて、うわーこれ入んのやだなぁって道が。

私:「これ?」

K:「うんたぶん」

内心余裕でびびってたんですが、まあ調子づいて行こう行こう言ってた手前、やめようか?なんて言うにいえず。
相手にとって不足なし、イザァ!なんてうるさい空元気とともにそこ入っていったんです。

林の中は想像以上に真っ暗で、空だけがかろうじて青みを帯びて頭上の葉陰を浮かび上がらせている。
地面をはいずるように進むと、じきに丸太でできた階段になる。
階段を上るとばっと視界が広がる。
丁字路になってまして、突き当たりが崖のようにぐっと落ち込んでて真っ暗。
右手は林道がつづいてまして、手前に小屋が一軒林に埋もれるようにある。
左手はっていうと、錆びた鉄の門がドラム缶をゴロゴロ積んで封鎖してあって、その奥が上り調子にこうぐーっとカーブしてて、目の前のがけをグルーと回って岬のようになって終わってる。
その背景に真っ白い、病院。

何でこんなところに・・・というような大きな病院の建物。
カーテンのない窓が妙に不気味で、どくろの眼窩を髣髴とさせる。
窓が割れるでも落書きがあるでもなく、妙に綺麗に白っぽいのがかえって不気味。
時間も時間なので湿っぽい空気がひんやりして来て、いわゆる生ぬるい風がふわぁと吹いてて・・・イヤーな雰囲気なんですよね。

私:「Y君、こりゃやばいよ。やめとこうよ」

いつの間にか、ややうしろにいたKがぽつりと言う。
正直、ぞっとしました。

しかも正直それに激しく同意なんですが、こちとら空元気で動いてますからね。
ここまで来て臆病風吹かれたなんて思われるのもなんかイヤだったし。

更なる空元気で、だいじょぶ!いこうぜ!なんてこと言ったんでしょうね。
大げさに大股でずんずんと門に近づき、さてこのドラム缶をどう超えてやろうか、と手を伸ばしたその瞬間、「Y君!(私)Y君!!Y君!」
見たことないくらい引きつった顔のKが、横向きながらこっちへちっちゃくなって駆けてくる。
私の肩をドンッ!と掴むと、「あれ・・・!あれ・・・!」と、無理やりKの見ているほうへ私の体を向けながら指差す。

でもなーんにもないんだ。

そこは病院の前庭の端っこで、岬になったようにがけに突き出てる。
木が二、三本ばかり立ってるだけ。

私:「おぉいぃ。おどかすなよォ。びっくりしたぜ。でもおまえそういうの上手いのね。あーびっくりした」

なんだ脅かしか、と急に緊張が解けたもんですから笑顔が出るんですが、Kは一向に笑わない。
きっと鹿が突然猟師に出会ったらこんな目をするんじゃないかな?と思える必死さで岬を見つめてる。

K:「Y君、あの木、あの木。・・・動いてない?」

ありゃーどうしちゃったのかな?と思いながらも、その岬の先にある木を見てみる。
うす曇りのやや青みがかった空をバックに立つ、三つの木のシルエット。
・・・確かにゆらゆらと揺れているような気がする。

私:「いや、風だろ。木もあれぐらい揺れるだろ」

引きつった笑顔でKの方へ向き直り、またふと岬の方へ目をむけると、木の位置が変わってるんだ。
三本ほぼ等間隔だった木が、今はほとんど二本に見えるように重なってる。

私:「え?え?あれ?おかしいな?」

K:「人だよ・・・あれ人だ」

さらに引きつった笑顔でKの方を見るんですが、Kは一向にこっちを見ないのでまた岬を見る。
木が三本になってる。
しかも確実にこっち側に寄ってる。

・・・と思った瞬間、ダーッとKが走って逃げ出した。

K:「人だよY君!あれ人!人!」

なんだかわからないことを叫びながら逃げ出すK。
なんだかわからないけど確実に近づいてきている木のような何か。
もうなんだかわからなくなりましてね、Kの後を追ったんです。

右の階段を下りれば駐車場、というところで前方をみると、おや?って思った。
あれ、電気がついてるぞ、と。
前方の林道に続く道の脇に小屋が立ってるんですが、その小屋の二階くらいの位置に窓があって、いやーに黄色い明かりがポーンとついてて、その中に黒い人のシルエットがあるんです。

うわっと思った瞬間、小屋のドアが開いて、黄色い明かりと黒いシルエットが二、三人ばかりぞろぞろぞろっと出てきた。

もうすごいスピードで逃げましたよ。
階段を下りた記憶もないくらい。

いつの間にか追いついてたKを車に押し込み、運転席に乗り込み、鍵を閉めてエンジンをかけるが、こういうときに限ってなかなかかからないんだ。

やっとのことでエンジンがかかると、そのあとはもうアクセルペダルべた踏みで、左右確認もせず駐車場を飛び出すと、地元のほうへ一直線ですよ。

私:「あーこわかったなぁ。あーこえ。なんだったんだろなあれ、あーこえ」

K:「そういえばY君。あそこの病院、やくざが管理してるって話も、聞いていたよY君」

そういうことは先に言え!と、なんとなくオチがついてほっとして帰ってこの話はおしまい。

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